五島つばき蒸溜所:気鋭の造り手と考える、
ジャパニーズ・クラフトジンの未来。
– 後編 –

PICK UPピックアップ

五島つばき蒸溜所:気鋭の造り手と考える、
ジャパニーズ・クラフトジンの未来。
– 後編 –

#Pick up

Kadota Kunihiko/門田クニヒコ、Kitou Hideaki/鬼頭英明 by「五島つばき蒸溜所」

今月は注目の「五島つばき蒸溜所」をフィーチャー。後編では、現在のジャパニーズクラフトジンのシーンを紐解きながら、未来のキーワードを考えます。

文:Ryoko Kuraishi

作業に勤しむ鬼頭さん(左)と門田さん(右)。「3人しかいないので、開発からボトリング、発送作業に(隣接する)教会の整備まで、全部自分たちで行っています」と門田さん。

現在、日本各地で新しいクラフトジン蒸留所が誕生している。

「五島つばき蒸溜所」の3人は、培ってきた製造やマーケティングの技術を次世代に受け継ぐべく、若い造り手たちのアドバイザーとなって彼らのものづくりを後押ししている。

特に鬼頭さんはSNSで専門性の高い情報を発信している。若手に自身の知識を活用してほしいと願っているのだ。

そんな2人と現在のクラフトジン・シーンを整理すると、マーケットにあるプロダクトは
1.土地の特産品を使っている
2.奇をてらった素材使い
3.バーテンダーが監修に関わっているような、カクテルに仕立てて真価を発揮する
の3つのパターンに大別できるようだ。

「GOTOGIN」に使われているボタニカル。ジュニパーベリーは一粒ずつ一文字割りにするなど、雑味のないクリアな香り・味わいのために徹底的な下処理が施される。

鬼頭さん「各地にいろいろなジンがありますが、土地の名産の柑橘やフルーツ、植物をキーボタニカルにしているところが多いですね。

それは至極真っ当な造り方ではあるのですが、特定の素材の香りが全面に出てしまうようなわかりやすい味わいは、“お土産品”になってしまいがち。

旅先で飲んだり、旅の思い出に持ち帰ったりにはぴったりですが、日常にどう落とし込んでいくのか。そこが課題になりそう」

門田さん「加えて、嗜好品である以上、香りや味わいの向こうにもう一つのレイヤーが欲しいところ。

それは物語性だったり造り手のキャラクターだったり、戦略はいろいろですが、いずれにしろこのレイヤーがないと、飲み手にとっては奥行きのない体験になってしまいます」

蒸留機はアーノルドホルスタイン。チャンバーの形状は椿の種をモチーフにしている。「五島つばき蒸溜所」のためだけに造られたものだ。

これからのクラフトジン・シーンで注目すべきキーワードは?

2人が考えるこれからのクラフトジンのキーワードは、「ハーモニー」だ。

そのジンを一口含めば、もっと飲みたい、味わいたい、そんな気持ちにさせられる。飲むことでもっと気持ちよくなりたいというポジティブなトリップに誘ってくれるのは、「さまざまなボタニカルが織りなすハーモニー」と鬼頭さんは言う。

原材料のボタニカルは何なのか、断定し難い複雑な味わいだけれど、なんだかおいしいし余韻がある。そして口当たりはいいのに、後味はキリッとキレる。だからもっと飲みたくなる。

それが「ハーモニー」だ。

鬼頭さん「僕がジンの設計で大切にしているのは、ボタニカル全体の調和、そして後味のキレですね。

ジンに欠かせないジュニパーベリーを蒸留すると、初めにマツヤニのようなスッキリした香りが、最後には油脂が表れます。ジンをジンたらしめるのはこの香りですが、後味のキレをもたらすのは精油の油脂。

このジュニパーベリーの香りやキレをベースに、さまざまなボタニカルのレイヤーを作っていきますが、一般的なジンの製法である、複数のボタニカルを同時に蒸留する方法だと細かな香りの設計ができない。
だからボタニカルごとに蒸留してエッセンスを抽出するんです」

蒸溜所内の様子。

門田さん「うちのように、フレグランスでもないのにボタニカルごとに蒸留する手法って、すごく日本っぽいと思うんです。

たとえば、かつおぶしと昆布は別々にだしを取るでしょう?

素材の良さを引き出し、雑味を出さないようにしようと思うと別々に仕込んだほうがいいっていうことを、日本人は直感的に理解できているのでしょう。

ですから、今後、僕たちのようにボタニカルのどこを強調するのかということをロジカルに突き詰め、ボタニカルを個別に蒸留する造り手が出てくるかもしれません」

鬼頭さん「加えて、わかりやすくないジンに注目していただきたいと思います。

日本にはジンだけを造っている造り手は少ないんですが、そういうところはみんな気合いが入っていますね。辰巳蒸留所、季の美の京都蒸溜所、アレンビック・ディスティラリー……彼らはわかりやすい、シンプルすぎるジンは造らない。

ボタニカルのバランスだったり、味わいと香りのハーモニーだったりを徹底的に追求しています」

毎週土曜に蒸溜所内の見学ツアーを実施している。「『GOTOGIN』を目当てに五島まで旅をしてくれて、この景色を間近に眺めながらこのお酒を味わっていただく。そんな風に楽しんでいただくことが僕たちの夢なんです」(門田さん)。

日本のジン・シーンに期待するもの。

門田さん「ジャパニーズウイスキーが世界的に注目されるようになったのは、サントリーとニッカが世界的な品評会で立て続けにグランプリをとり、受賞歴を活用してうまくPRしていったことが大きかったと思います。

そういう過去を振り返ると、一つのカテゴリーを大きく成長させるのはトップメーカーによるところが多いのではないでしょうか。

ジャパニーズ・クラフトジンとはどういうものか、どう発展させるのかということを、トップメーカーが音頭を取って進めることが、若手の参入を促し、シーンを活性化させるように思います」

鬼頭さん「ジンというのはヨーロッパが本場ということもあり、日本、とくに地方ではジンへの馴染みが薄い。

ジンのアロマを感じる、後味の余韻に浸るというスタイルの普及はまだまだと感じますが、クラフトジンらしい味わい方が少しずつ広まっていくといいなと思っています。

まず、ストレートやロックでアロマを感じていただく、そういう飲み方を知ってもらえるといいですね。

バーテンダーの方には、クラフトジンの魅力をさらに引き出すカクテルの考案を期待しています。

『GOTOGIN』はストレートで出しています、というバーテンダーが多いのですが、造り手の想像を軽々と超えるような驚きのカクテルを作り出してくれるはず。

クリエイティビティあふれるものづくりこそ、ジャパニーズ・カクテルの真髄だと信じています」

SHOP INFORMATION

五島つばき蒸溜所
長崎県五島市戸岐町 半泊1223
URL:https://gotogin.jp/company-info

SPECIAL FEATURE特別取材