PICK UPピックアップ
グアムでエールをつくる
日本人ブリュワーを追って!
<前編>
#Pick up
石井敏之さん by「MINAGOF BEER」
クラフトビールが市民権を得ているアメリカには、「ロックスター・ブリュワー」や「フライング・ブリュワー」などと呼ばれるカリスマ・ビール職人が存在する。
もしかしたらこの方も、近い将来、そう呼ばれるようになるかもしれない。
今回取材した、日本人の石井敏之さんだ。
(日本ではすでに、大いなるカリスマ!)
どりぷら読者にはご存じの方も多いかもしれないが、石井さんは日本におけるエールビール業界の第一人者。
アメリカやヨーロッパの業界でも「Toshi Ishii(トシ・イシイ)」として、その名を轟かせている。
(ここからは、敬意を込めて、Toshiさん、と呼びます!)
そんなToshiさんは今、日本を離れ、グアムでビールをつくり、グアムにエール文化を広めようとしている。
現在、アメリカでビール製造ライセンスを取得しているのは1877社。そのなかで唯一の日本人オーナーブリュワーだ。
グアムにおいては、サンミゲールが撤退して以来、実に35年ぶりのブリュワリー設立だという。
しかも、つくるのは未ろ過のドラフト・エールビール(樽生)のみ。
(つまりグアムでしか飲めない!)
これは面白すぎる! という訳で、さっそくどりぷら取材班はグアムに飛んだのでした。
訪れたToshiさんのブリュワリー(Ishii Brewing Company)は、ホテルが立ち並ぶタモン地区からほど近い、雑居ビルの1室。
「こ、ここでビールをつくっているのか!?」と疑いたくなるような、かなりワイルドな佇まいだ。
(下の写真をご参照)
隣の部屋にはなにやらオフィスが入居しているし、別のテナントにはエスニックレストランやカラオケパブが並んでいる。
ちなみに、ブリュワリーがある部屋は、もともとビリヤード場(プールバー)だったとのこと。
そんなワイルドな佇まいとは裏腹に、Toshiさんと、奥さんの有樹子さんはどりぷら取材班を快く出迎えてくれた。
Toshiさんのブリュワリーは、このなか! ちょっとしたカルチャーショック。
ブリュワリー内部の話をする前に、Toshiさんの簡単なバイオグラフィーを紹介しておこう。
Toshiさんは日本の大学を卒業後、大手不動産会社に勤務し、将来的にアメリカで働くことを希望していた。
が、バブル崩壊があり、会社は海外事業を縮小し、アメリカ支社も撤退。
「だったら1人ででも海外に出てやろう」と、インターン制度でアメリカに行くことを目論んでいた。
最初は経験のある不動産関係の仕事を探していたのだが、学生の頃から好きだったビールにも興味があった。
イギリスやドイツ、チェコはもちろん、アメリカ・セントルイスのビール工場にまで足を運ぶほどのビール好きだったToshiさんは、カリフォルニアを訪れた時にちょっとしたカルチャーショックを受けたという。
「カリフォルニアには、それは驚くほど小さなブリュワリーがたくさんあって、それぞれ個性的なビールをつくっていました。それまでビールというのは世界的にも超巨大大手ビール会社の技術者がつくるものだという固定観念があったのですが、アメリカではつくりたいヤツがワイワイ楽しくビールをつくっている。あれ、ビールってつくれるもんなんだ、と感じたんです」
アメリカ(グアム)のビール製造ライセンス。
日本に戻ったToshiさんは、今ほど普及していなかったインターネットを駆使して探し出した、サンディエゴのStone Breweing Co.に直接アクセス!
クラフトブリュワリーの経営全般を学びたい旨を伝えると、いきなりOKの返事。ここでインターンとして1年、その後の2年は製造を中心にブリュワリーの経営全般を学んだ。
「最初はビールづくりまで教えてもらえるとは思わなかったんですが、ビールの醸造法はもちろん、営業や販売、商品管理、マーケティング、レシピも含めて、ブリュワリー経営のすべてを包み隠さず教えてくれました。ブリュワリー経営全般よりも、アメリカのクラフトブリュワーとして、オーナーとして、どのように表現し、行動すべきかを叩きこまれました。小さなブリュワリーだったということもあるんですが、それ以前にクラフトビールの文化を広めたい、アメリカン・クラフトブリュワーとしての魂を伝えたい、という思いが根本にあったんだろうと思います」
日本に戻ったToshiさんは、某地ビール会社で醸造責任者として看板エールビールのレシピ開発、製造工程を確立し、続いて日本初のリアルエールも世に送り出した。
日本でリアルエールをつくるに当たって、イギリスのブリュワリーでも醸造技術を学んだ。
時を前後して、2003年から現在まで続く「東京リアルエールフェスティバル」では、両国「ポパイ」の青木辰夫氏や後にグッドビアクラブ会長となる藤浦一理氏らとともに尽力してきた。
(日本のビールイベントでは、本名より「赤いシャツの人」で通っていたらしい)
また世界的に有名なビール評論家、故マイケル・ジャクソン氏の紹介により、「Great British Beer Festival(通称GBBF)」にも参加するようになり、その名をヨーロッパやアメリカの業界関係者にも知られるようになった。
09年に独立後、イギリス、チェコ、ノルウェイなどでコラボレーションビールを醸造し、日本でも「Toshi’s IPA」をリリース。
そして2010年2月に、グアムにやってきた。
海外のメディアにも「Toshi」としてたびたび登場していた。
それにしてもなぜグアムなのだろうか?
「まずアメリカでビールづくりのノウハウを学んだので、いつかはアメリカに恩返しがしたい、という思いがありました。当初は自分のホームタウンであるサンディエゴでの開業も考えましたが、いろいろと思い悩んだ結果、やっぱりやるんならパイオニアだろッ! ということでクラフトビール不毛の地グアムを選んだのです」
「実はそれまで、ボクも妻もグアムに行ったことはなかったんですが……(笑)」
アメリカは今ちょっとしたマイクロ・ブリュワリーブームだ。
過去40年間、右肩上がりにブリュワリーが増え続け、現在その数は1877(2011年11月30日現在)。そのうえ、開業準備中のブリュワリーが855もあるという。
そのほとんどが、オーナー自らがブリュワーでもある、ごく小さな醸造所だ。
アメリカももちろん不況まっただ中だが、クラフトビール業界だけは景気がいいらしい。
「基本的には地元でつくったビールを地元の人が飲む。いわゆる地産地消がうまくいっているんです。本当の意味での“ローカルビール”です。それぞれの地域での点と点が線となり、面となって、アメリカ全土で文化として定着しつつあるんです。でもグアムにはメイド・イン・グアムのビールがない(※ブルーパブは1軒有)。だったら自分がグアムでクラフトビールの文化を広めて、アメリカに少しでも恩返しをしようと思ったんです」
そんな訳で日本での安定した立場を捨て、ここグアムにやってきた。
「ボクがやってることは日本では完全なアウトサイダーですけど、アメリカではまっとうなトレンドなんですよ(笑)」
後編につづく。
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