グアムでエールをつくる
日本人ブリュワーを追って!
<後編>

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グアムでエールをつくる
日本人ブリュワーを追って!
<後編>

#Pick up

石井敏之さん by「MINAGOF BEER」

今アメリカでブリュワリーを起業するというのは、具体的にどういうことなのだろうか? Toshiさんがグアムならではの裏話も交えて、その現状を語ってくれた。読み終わる頃には、あなたもグアムへミナゴフを飲みに行きたくなるはず!

文:Drink Planet編集部

Toshiさんのブリュワリーを訪れる前に、タクシーの運転手やホテルのスタッフにToshiさんのビールについて尋ねてみた。

「Toshi? 知らないな。そんな名前。ミナゴフ? ああ、あのビールのことね」

彼らはビールのブランド名である「ミナゴフ」は知っていても、Toshiさんのことはまったく知らなかった。グアム在住歴が長い日本人の知り合いでさえ、「ミナゴフ」ビールをつくっているのが日本人だということに驚いていたほど。

そのことをToshiさんに告げると、Toshiさんはうれしそうに笑った。

「おお、それは狙い通りなんですよ! 幸い、ボクの事をグアムの関係者は100%誰も知らない。ボクはグアムに『Toshi』ブランドのビールをつくりに来たわけじゃないんです。メイド・イン・グアムのローカルビールをつくり、ローカルのビールファンを増やし、ゆくゆくはローカルたちに醸造法を伝えていきたい、そして1877社一丸となって世界最強になってゆくアメリカン・クラフトビール業界の一翼を担いたい、と考えているんです」

だからこそ、ビールのブランド名も「ミナゴフ(MINAGOF)」とした。

これは現地チャモロ語で「幸せ、喜び」という意味。

ロゴマークには、グアムの人々にとってマスコット的存在であるゲッコー(ヤモリ)を採用した。

(デザインを担当したのは、奥さんの有樹子さん!)

ミナゴフは、たまたま日本人のToshiさんが手がけたというだけで、あくまでグアムローカルのためのローカルビールなのだ。

日本やアメリカ本土でToshiさんがブリュワリーを起ち上げていたら、図らずもToshiさんの名前が独り歩きしていたかもしれない。

仕込みを行うスペースは、広めのキッチン程度。

2010年2月にグアムに来てから、ビール製造免許を取得するまでになんと7ヶ月もかかったという。

前例がないビジネスのために、グアムの役所もどうしていいかわからなかったに違いない。

(単にグアムがのんびりしている、という話もあるが……)

ブリュワリーとなる場所を探し、アメリカ本土より設備を納入し、仕切りのパーテーションや発酵室は夫婦2人で組み立てた。

2010年9月にようやくライセンスがおり、翌10月より発売を開始。

エールビールを知らないパブやバー、レストランのオーナーに、エールビールのつくり方から飲み方までを教えてまわった。

ミナゴフは未ろ過のドラフト・エールビール。

要冷蔵で保存期間が短い“生き物”ゆえに、管理が命。

「たとえ置いてくれるという店でも、管理状態がひどい店からは自主的に撤退しました。そうしないと、せっかく注文してくれたお客さまに本当のミナゴフの味が伝わりませんから。それにも増して、ビール自体に迷惑がかかりますし……」

徐々に軌道に乗りはじめた矢先、今度は3.11が起こった。

たまたま翌日来日したToshiさんは1カ月以上グアムに戻れず、観光客は減り、グアムのミリタリーはみな救援活動のために島を離れてしまった。

ブリュワリーとして本格的に活動できるようになったのは2011年の5月以降のことだ。

さて、気になるブリュワリーの内部は、入口すぐ横にモルトなどの原料が置いてあり(まるで工事現場のよう!)、手づくりのパーテーションで仕切られた発酵スペースがあり、その奥に糖化や煮沸などを行うこぢんまりとしたマシンが配されている。

あとは保存のための冷蔵庫……、以上。

すべてが目で見える範囲にあり、実にシンプルだ。

(Simple is Best!)

1回に仕込めるのは1/2バレル。

これはToshiさんが以前在籍していた日本の某地ビール会社の170分の1程度の規模。

アメリカでは最低生産量の規定がないため、小規模でもブリュワリーをスタートできるのだ。

「どうです? 小さいでしょう? もちろん全米最小です!」とトシさんは誇らしげに笑う。

現在、仕込みは1日2回(つまり1日1バレル生産)、これを火・木・土の週3回行っている。

製造はもちろんToshiさん1人が行い、奥さんの有樹子さんは営業・流通・販売を担当している。

手づくりの発酵スペース。

原料は、モルト、ホップ、イースト、水の4つのみ。

モルトとホップはワシントン州から、イーストはサンディエゴから仕入れ、水のみ、グアム産のものを使用している。

「グアムに来た理由のひとつが、この水なんです。エールビールに欠かせない非常に硬い水で、サンゴ由来の石灰層を通っているためカルシウムやミネラルを多く含んでいます。この水を最初に飲んだ時に、これはイケるな!って確信しました」

ミナゴフブランドとして、手がけるのはエールビールのみ。

「ラガーは、大手のビール会社にお任せしますよ!」とのこと。

フラッグシップは「ミナゴフ・ペールエール(PA)」。

アメリカン・スタイルのホップを効かせたモルティーな味わいのエールだ。

常夏の島グアムで飲むイントロダクション・エールとして、アルコール度数は4.3%と低めに設定されている。

もうひとつは「ミナゴフ・インディアペールエール(IPA)」。

こちらはPAに比べて苦味は1.75倍、アルコール度数は6.6%、味わいに深い芳醇さがあり、アルコール好きにはたまらないエールに仕上げられている。

現在は未ろ過のドラフト=樽のみ、グアム島内の13店舗のダイニングやパブに卸している。



フュージョン・タバーン(左上)、マック&マーティ(右上)、カリフォルニア・ピザ・キッチン(右下)、味一(左下)他、現在13店舗でミナゴフを飲むことができる。詳しくはHPで!

「まだ本当にスタートしたばかり。現在の主な飲み手はアメリカ本土での生活経験がある軍関係者やツーリストですが、徐々にローカルにも認知されてきています。これまでラガー一辺倒だったグアムのビール事情ですが、ビールにはエールというスタイルがあることを知ってもらい、エールの魅力にはまってほしいですね」

「確率論でいえば、10人に1人でいいんです。我々はコンシューマー(消費者)ではなく、ファン(愛好家)のためにビールをつくっているので……」

「ミナゴフはあくまでグアムで暮らす人に向けてつくったMade in GUAMのエールビール。とはいえ、日本の方もグアムを訪れた際にはぜひ飲んでみてください。とりあえず、グアムでしか飲めませんから(笑)」

最後に、Toshiさんが興味深いことを語ってくれた。

「ビールをつくる(Brewing)を日本語であらわす際、漢字だと『造る』という表現になるのがほとんどなんです。醸造という言葉があるから仕方がないんですが、ボクにとっては『造る』ではなく『創る』なんです」

「特にクラフトビールは工業製品ではなく生き物。人類が生み出した伝統と歴史の上に、さらなるイノベーションを加味したアーティストのような感覚でクリエイトしていくものなんです。そして創った本人自らの言動で伝えていかなければならない。これからも『ミナゴフ(喜びや幸せ)』を感じられるようなビールを創り続けていきたいと思っています」

SHOP INFORMATION

MINAGOF BEER
#102 Northwest Plaza, 458 South Marine Corps Dr., Tamuning, Guam 96931
TEL:+1-671-487-0868
URL:http://www.ishiibrew.com

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