第1回チリピスコカクテルコンペティション特別レポート

SPECIAL FEATURE特別取材

第1回チリピスコカクテルコンペティション特別レポート
[vol.01] - チリピスコってなに? チリピスコの魅力を解説!

#Special Feature

文:Drink Planet編集部

2024年11月10日(日)、チリ大使館商務部主催により、(記念すべき)第1回チリピスコカクテルコンペティションが開催されました。全国から選手であるバーテンダー8名、ゲストバーテンダー8名、計16名のバーテンダーがチリピスコを使ったこの日限りのカクテルを披露してくれました。Vol.1ではコンペティションの模様をお伝えする前に、チリピスコについてちょっと触れておきましょう!

アンデスの雪解け水が流れる谷に沿って、ピスコ用のブドウ畑が広がる。日差しが強く、雨はほとんど降らない。

アンデスの雪解け水が流れる谷に沿って、ピスコ用のブドウ畑が広がる。日差しが強く、雨はほとんど降らない。

チリピスコを知る、味わう、コンペティション。

第1回チリピスコカクテルコンペティションでは、競技とは別に日本の方々にまだ馴染みが薄い「チリピスコを少しでも知ってもらおう」と、チリピスコに関するさまざまなアプローチが繰り広げられました。

中瀬航也さんによるチリピスコセミナーもそのひとつ。

中瀬さんといえば、東京・五反田のシェリー専門バー「Sherry Museum」のオーナーであり、日本におけるシェリーの第一人者。

Drink Planetでの中瀬さんに関する記事はこちら!

そんな中瀬さんとチリピスコとはどんな関係なのでしょうか?

「チリをはじめ南米の多くの国はかつてスペイン領でした。チリのブドウもそもそもはスペイン・アンダルシア地方から伝わったもの。また蒸留技術もスペインからもたらされました。ですからシェリーとピスコは歴史的にも文化的にも関係が深いんです」

「当店でもチリ産を含めて100種類ほどのピスコを扱っています。これまであまり知られてこなかっただけで、チリピスコは興味深いお酒ですし、日本人の味覚にも合います。この機会にチリピスコへの理解を深め、まずはなによりチリピスコを試していただきたいですね」

(中瀬さんは日本のおけるチリピスコの第一人者でもあるってコト!)

というワケで、ここからは中瀬さんによるチリピスコセミナーを基に、チリピスコについて簡単に説明していきましょう。

中瀬航也さんによるチリピスコセミナーの様子。

中瀬航也さんによるチリピスコセミナーの様子。

500年もの歴史がある南米チリの蒸留酒。

まずはチリという国の国土から。

チリは太平洋を挟んで日本のちょうど反対側。

南アメリカ大陸にあり、太平洋とアンデス山脈に挟まれた、あの南北に細長~い国です。

下の地図をご覧の通り、チリは南北約4,300kmもあるのですが、ピスコを生産しているのは北部にあるアタカマ(Atacama)州とコキンボ(Coquimbo)州の2州のみです。

(※編集部注:チリでは、アメリカ大陸で初となる原産地呼称制度が1931年に制定され、アタカマ州とコキンボ州がピスコ産地として認定されています)

国土の最北部は砂漠地帯、アタカマ州とコキンボ州もほとんど雨が降らないエリアなのですが、アンデスの雪解け水が流れる谷に沿ってピスコの原料となるブドウ畑や集落が連なっています(上の写真をご参照)。

中瀬さん曰く「日差しが強く、昼夜の寒暖差が非常に大きいので、ブドウに果実味と凝縮感をもたらす」のだそうです。

簡単にいうと、このブドウを使って、チリで蒸留されたスピリッツが、チリピスコです。

「そもそもスペインから南米にブドウや蒸留技術がもたらされたのは16世紀。17世紀に入りスペイン本国が植民地でのワイン生産を禁じたことから、ピスコ生産が盛んになったと言われています。ピスコの発祥について、チリとペルーが争っていますが、どちらがオリジナルかはあまり重要ではないかもしれません。いずれにせよ約500年の歴史がある蒸留酒ということです」

左側が北、右側が南、のチリの地図。南半球なので北(左側)のほうが暑い。

左側が北、右側が南、のチリの地図。南半球なので北(左側)のほうが暑い。

チリピスコならではの特長とは!?

では、ここでチリピスコの製法上の特長をまとめておきましょう。

ごくごく簡単に説明すると、以下のような感じです。

★チリピスコのブドウはモスカテル系がほとんど。
★チリピスコは単式蒸留器による1~3回蒸留。
★チリピスコはアンデスの雪解け水で加水調整。
★チリピスコは木樽による熟成もOK

そんなチリピスコにはどんな魅力があるのでしょうか?

「まずモスカテル(マスカット)種のブドウが主なので、フルーティで心地いい癒し系の香気成分があります。味わいもブドウ由来のフルーティさがあり、飲みやすいです」

「続いて、水と相性がいい、ということ。これはアンデスの雪解け水で加水調整しているからでしょう。ですからチリピスコは水割りやロック、ハイボール、もちろんカクテルにしてもいい。実はブランデーやコニャックは水と相性が悪いんです。それから水と相性がいいということは、食事にも合い、食中酒としてもお楽しみいただけます」

「樽熟タイプもあるので、樽熟系のチリピスコは食後のデザートやシガーなどにも合いますね。これまで樽熟の長期熟成チリピスコはほとんどが国内消費でしたので、日本にもこんなチリピスコがあるんだということを少しずつ広めていってほしいです」

「Cocktail Bar Raven」の伊藤広光さん。

「Cocktail Bar Raven」の伊藤広光さん。

アタカマ州とコキンボ州の蒸留所の違い。

今回ゲストバーテンダーとして参加した「Bar BenFiddich」の鹿山博康さんと「Cocktail Bar Raven」の伊藤広光さんは、今年3月にチリを訪れ、実際にアタカマ州とコキンボ州のチリピスコ蒸留所をいくつも巡ったそうです。

実際のところのチリピスコはどんな感じなのかをお2人に聞いてみました。

まずは「Cocktail Bar Raven」の伊藤広光さんから。

「アタカマ州はアタカマ砂漠で知られる通り、かなりの砂漠地帯でした。アンデスの雪解け水が流れる川沿いがオアシスになっており、集落の周辺にブドウ畑が広がっています。アタカマ州のピスコ生産者は圧倒的に小規模。ブドウ農家さんが造っているクラフトピスコ、というイメージでしょうか」

「一方、コキンボ州は少し都会になります。中規模~大規模なピスコ生産者が多く、インダストリアルなぶんだけ、設備は近代化されています。特にピスコ・エレキと呼ばれる街(谷)はチリピスコ発祥の地とされ、老舗も含めて多くの蒸留所が集まっています」

そんな伊藤さんは、ゲストバーテンダーとして雲丹や海苔で海のニュアンスを溶け込ませた「ピスコサワー」と、南米のBBQであるアサードからインスパイアされた炭火が香る「デシエルト」という2つのオリジナルカクテルを披露してくれました。

「僕のカクテルはかなり飛躍しましたが(笑)、チリピスコ自体はチリの皆さんが毎日楽しむ気軽なお酒。ラテンのノリの陽気なお酒です」

「それでいて、シーフードにも合うし、肉料理にも合う。また和食にもうまく寄り添うと思います。バーテンダーにとっても、新しい可能性を広げてくれる興味深いスピリッツです」

「Bar BenFiddich」の鹿山博康さん。

「Bar BenFiddich」の鹿山博康さん。

チリのピスコサワーは卵白なし、ビターズなし!

「Bar BenFiddich」の鹿山博康さんには現地チリでのチリピスコの飲み方について訊いてみました。

「圧倒的にポピュラーなのは『ピスコーラ』です。文字通り、ピスコをコーラで割ったもの。1:1で割っているので、飲みやすい割にまあまあアルコール度数は高いです(笑)。『ピスコーラ』はチリの国民的ドリンクであり、ソウルドリンク。とにかくみんな大好きです」

(当日の会場でも、チリ人のゲストが「ピスコーラ」を必死に求めていました!)

「あとは世界的にもスタンダードとなっているピスコサワーも人気です。でも、グローバルスタンダードのピスコサワーはペルー式。チリのピスコサワーはピスコ、ライムorレモンジュース、シュガーシロップのみでつくり、ペルー式の卵白とアンゴスチェラビターズは入りません。グラスもシャンパングラスで提供することが多いようです」

前述の中瀬さんによると、ピスコサワーが初めて文献で確認されたのはチリ(1882年)で、ペルーよりも半世紀ほど早いんだとか。

鹿山さんによると「チリでも一時は卵白入りのピスコサワーをつくっていたそうですが、食品衛生法で生卵の使用が禁止されたのをきっかけに、今では卵白なしのピスコサワーが再び定番化されたらしい」とのことでした。

「それから、ちょっと感動したのがフローズンスタイルのチリピスコサワー。フードコートなどでフローズンマシンに入ったピスコサワーがグルグル回っているのですが、実はこれがかなり美味。BenFiddichでもフローズンマシンを導入しようか迷ってるくらいです(笑)」

さて、ひと通りチリピスコの知識を深めたところで、Vol.2ではお待ちかねのコンペティションの模様をお伝えしましょう!

SPECIAL FEATURE 一覧へ

SPECIAL FEATURE特別取材