
SPECIAL FEATURE特別取材
シリーズ連載/英国ドリンク事情
[vol.01] -
大竹学さんが語る、UKジンとモダンマティーニ。
#Special Feature
文:Drink Planet編集部
今回お話を聞いた「ロイヤル バー」マネジャーの大竹学さん。
世界最先端のバーシティである首都ロンドンとウイスキーの聖地スコットランドを抱え、さらにはジンの分野でも古くからシーンを牽引してきた英国。
近年では南東部のサセックス州を中心に生産されるUKスパークリングワインにも、世界的な注目が集まっています。
2012 年からは、英国政府が中心となって「GREAT Britain」というグローバルキャンペーンを展開中。
特に英国のフード&ドリンクに焦点を当てた「Food is GREAT」キャンペーンは、環境・食糧・農村地域省(Defra)が英国国際通商省(DIT)とのパートナーシップのもとに主導する取り組みで、英国の魅力を世界に向けて訴求する「GREAT Britain」キャンペーンの柱のひとつとなっています。
Drink Planetでは、そんな英国のスピリッツ&スパークリングワイン事情を、シリーズ連載として10回に渡ってレポートしていきます。
第1回のテーマは「モダンマティーニ」。
というワケで、「Mr.マティーニ」と呼ばれた伝説のバーテンダー、故・今井清氏の遺志を受け継ぐ、パレスホテル東京「ロイヤル バー」のマネジャーである大竹学さんに、英国のこと、ジンのこと、マティーニについて話を聞きました。
ちなみにDrink Planet読者の方であれば、大竹さんのことはご存知ですよね?
大竹さんがディアジオ社主催のコンペティション「ディアジオ・ワールドクラス 2011」で世界一に輝いた時の記事はこちらです!
カウンターをはじめ、故今井清氏による意匠を今に受け継ぐ「ロイヤル バー」店内。
「ワールドクラス」で優勝して以降、大竹さんが訪れた国と地域は30以上。
「ロイヤル バー」を取り仕切る傍ら、今も国内外でセミナーや審査員、ゲストシフトを行い、まさにワールドクラスの活躍をされています。
「英国をはじめ海外の有名バーのメニューを開くと、マティーニを単に『Martini』ではなく『Martinis』という複数形のSを付けて、カテゴリーとして紹介している場合があります。よく『100人いれば100通りのマティーニがある』と言われますが、それだけバリエーションが多く、世界中で愛されているカクテルという証です」と大竹さん。
一般的なレシピはジン+ベルモットですが、アメリカではウォッカベースが人気だったり、マンハッタンをウイスキーマティーニと呼ぶ外国人のお客さまもいらっしゃるそうです。
とはいえ、今回は基本であるジン+ベルモットで話を進めましょう。
マティーニのベースとなるジンの起源には、イタリア説やオランダ説など諸説ありますが、現在の主流であるドライジン(ロンドンドライジン)が生まれたのは英国に他なりません。
近年では「シップスミス」や「No.3」「ヘンドリックス」といったブランドを火付け役に、UKクラフトジンが世界的な人気を獲得しています。
英国内のジン蒸溜所の数は、2008年にはわずかに数えるほどでしたが、2018年時点でHMRC(英国歳入税関庁)に登録しているだけで361とされ、大竹さん曰く「プロのバーテンダーでも正確に把握しきれない」ほど増えているとのことです。
英国産ジンのラインナップ。
「ロイヤル バー」では現在、常時20種類前後のジンを扱っており、そのうち約半数が英国ブランド。
さらに英国のジンを大きく2つに分けると、英国伝統のロンドンドライジンと、個性派のクラフトジン、になるのだそうです。
前者の特徴はずばり、力強さ。
骨太かつしっかりとしたアタックがあり、ボタニカルが濃厚に香り、切れ味はすっきり。
銘柄でいうと「ゴードン」「ビーフィーター」「タンカレー」「ボンベイ・サファイア」といった老舗ブランドのレギュラーラインがこれに当たります。
一方、後者の特徴は、個性。
例えば「ヘンドリックス」であれば、バラとキュウリのエッセンスを使用したりと、ボタニカルで個性を演出したジンが多いとのことです。
老舗ブランドでもボタニカルを際立たせた「ビーフィーター24」「タンカレー No.10」「スター・オブ・ボンベイ」などは、クラフト系といってもいいかもしれません。
大竹さんはこう付け加えてくれました。
「仕事柄、世界各国のバーに足を運びますが、実は日本のバーほど英国のジンを多く取り揃えているところは他にありません。おいしいジンをお客さまに届けたい、という日本のインポーターさんや酒屋さん、バーテンダー諸氏の努力の賜物です」
(左)パレスホテル伝統のマティーニ。(右)大竹学さんの「モダン・マティーニ」
では、大竹さんに故今井清氏より伝わるパレスホテル伝統のマティーニをつくっていただきましょう。
(ちなみに年間約4,000杯も出るんだとか!)
使用するのは、4〜5℃の冷蔵保存(冷凍保存ではない)で冷やした「ゴードン ロンドン ドライジン」、ベルモットの「ノイリー・プラット ドライ」、そしてオレンジビターズ。
これらをミキシンググラスで氷とともにステアし、香りがもっとも開いたところで、故今井清氏がデザインした特製マティーニグラスに注ぎます。
最後に、グラスにオリーブを沈め、レモンピールをサッとひと吹き。
グラスのすり切りいっぱいまで注ぐのも往年のスタイルです。
「これはあくまで基本となるレシピ。今井が究極的に求めたのは、一人一人のお客さまに寄り添ったマティーニです。ですから気温や湿度、時代や環境、なによりお客さまの好みによって、ジンとベルモットの対比を変えたり、ロックスタイルにしたりと、レシピやつくり方は変わってきます。お客さまが100人いれば100通りのマティーニがあるはずですから」
「No.3 ロンドンドライジン」を使用したマティーニ。
続いては、大竹さんが考えるモダンマティーニをつくっていただきました。
選んだジンは「No.3 ロンドンドライジン」。
英国王室御用達のワイン商ベリー・ブラザーズ&ラッド社(BBR社)が手がけたプレミアムジンです。
ジュニパーがしっかりと効いたシンプルながらも力強い味わいに合わせるために、ベルモットには「セイクレッド・エクストラドライ・ベルモット」をチョイス。
こちらは、マティーニで有名なロンドンの「デュークス・バー」が開発したもので、ニガヨモギやタイム、シナモン、クローヴなどを使ったアルコール度数23%の強めのベルモットです。
「No.3」の個性に負けない同じベクトルのベルモットとして、こちらを選択したとのことです。
「モダンマティーニといっても、特別に新しい技法や珍しい材料を使ったわけではありません。今という時代のレシピを見極め、英国の伝統と革新を、この一杯に閉じ込めました」と大竹さん。
Classic is New!
マティーニが「カクテルの王様」と呼ばれる理由が、おぼろげながらもわかるような気がしました。
★パレスホテル東京「ロイヤル バー」
東京都千代田区丸の内1-1-1
☎03-3211-5318
https://www.palacehoteltokyo.com/restaurant\royal-bar/