SPECIAL FEATURE特別取材
「ヘンドリックス・ジン・パレス」に行ってみた!
[vol.01] -
入れるのは特別な招待者のみ。
いざ「ジンの宮殿」へ!
#Special Feature
限定5名の特別なツアー
スコットランド第二の都市、グラスゴーから車を飛ばして1時間あまり。車寄せから続く細い道を進むと、高い塀の一角に古めかしい小さな扉が見えてくる。そこを抜けた先に広がる風景は、従来の蒸溜所とはまったく違うものだった。
「ジン・パレス」の名にふさわしい、重厚で存在感たっぷりの建物が視界いっぱいに広がる。両脇には小さな温室が2つあり、中を覗くとコーヒーやオレンジ、茶葉など、普段イギリスでは見かけない植物が生き生きと枝を伸ばしていた。
ヘンドリックス・ジンがここを開設したのは2018年のこと。飲酒業界で働くトップレベルのプロたちを世界中から招待し、その魅力をさらに深く理解してもらうためのツアーも行っている特別な場所だ。
参加できるのは毎回限定5名。パンデミック前の繁忙期には、毎週のようにゲストたちを迎えていたという。
その特別な空間に招き入れてくれたのは、ヘンドリックス・ジンのレシピを開発した伝説のマスターディスティラー、レスリー・グレイシーだ。
ヘンドリックス・ジンのレシピを開発した伝説のマスターディスティラー、レスリー・グレイシー
独特の味わいを作り出す19世紀のポットスティル
建物に足を踏み入れると真っ先に目に飛び込んでくるのは、正面にあるガラス張りの巨大なスペースに鎮座する3つの銅製のポットスティル。
左端の小ぶりのポットは、1860年製のベネット。中央の一番背が高いのが1948年製のカーターヘッド。これらのポットは発売元であるウィリアム・グラント&サンズ社の創設者のひ孫、チャーリー・ゴードンが、60年代にオークションで購入したものだという。
この2つのポットスティルで蒸留したアルコールをいかにブレンドするかが、ヘンドリックス・ジン独自の個性的な味わいを作り出す鍵となっている。
右端のキャリックはベネットを忠実に複製したものだ。
ゴードンから新しいジンの開発の依頼を受けたその日から、レスリーはベネットとカーターヘッドを使って研究を続けてきた。
正面にあるガラス張りからみえる3つの銅製のポットスティル。
特にベネットへの思い入れは深く「私のベイビーといっても過言ではないくらい。リタイアする時には記念にいただくことに決めています。庭の倉庫にぴったりと収まるちょうど良いサイズでもあるんですよ」といたずらっぽく微笑む。
蒸留に使わるボタニカルは、ジンに欠かせないジュニパーをはじめ、カモミール、アンジェリカルーツ、エルダーフラワーなど11種。レモンピールは細かく刻んだものだけでなく、蒸留酒がよりアロマを吸収できるよう、帯状にカットしたものも使用するというこだわりようだ。
レクチャールームでの試飲。チェイサーの水はイギリスらしくポットでサーブ。
ヘンドリック・ジンを生み出したレスリーのラボ
蒸留所を訪れた後は、レスリーのラボへ。ヴィクトリア時代と現代が交錯したような魅力あふれるこの空間で、レスリーはヘンドリックス・ジンの数々のバリエーションを生み出してきた。
壁の一角を独占する「キャビネット・オブ・キュリオシティーズ」という棚は、彼女のインスピレーションを掻き立てるボタニカルやハーブのエッセンスをはじめ、さまざまな品が所狭しと並んでいる。
カクテルを試飲できるバーカウンター
蒸留所見学からカーリング体験と盛りだくさんのツアーを、日本のバーテンダーにも体験してほしい
ラボの横にはレクチャールームがある。2つのスティルから得た蒸留酒から、それらをミックスしたもの、バラとキュウリのエッセンスを加える前のもの、そしてめでたく完成したヘンドリックスジンと、6種の過程を追ってテイスティング。ユニークな味が作られていく工程を、体験しながら学ぶことができる。
ゲストたちにヘンドリックスジンをより深く知ってもらうためには、スコットランドでの滞在を満喫してもらうことも重要だ。
レクチャールームの隣の古き良き時代を思わせるラウンジで、心ゆくまでヘンドリックジンを味わったら、近隣の古城ホテルへ。
ツアーには滞在中、元オリンピック選手の指導のもとでのカーリング体験なども組み込まれている。酒造りに真摯に取り組むだけではなく、遊びにも真剣そのものといった、他では味わえないヘンドリックスならではのツアーだ。
閉塞感で覆われた3年間を乗り越えて「新しくやってくる年には是非とも日本からのゲストを迎えたい」とのこと。日本のバーテンダーが、招待を受けてこの楽しい滞在を経験できる日を楽しみに待ちたい。