
SPECIAL FEATURE特別取材
カシスリキュールの女王にして先駆者、
「ルジェ」の美味なる秘密に迫る!
#Special Feature
文:Drink Planet編集部
ルジェ・ラグート社のクリスチャン・アルブイ社長。
1841年に世界で初めて近代的な手法によるカシスリキュールの製造を開始したフランスのルジェ・ラグート社。
去る某日、同社の社長であるクリスチャン・アルブイ氏が来日し、全国主要都市で「ルジェ ブランドセミナー」を開催した。
今回は東京会場の模様をレポートするとともに、アルブイ社長の独占インタビューをお届けしよう。
バーテンダー諸氏にはお馴染みのルジェだが、その味わいとは別に、歴史やこだわりといった細かな部分は意外と知られていないかもしれない。
アルブイ社長によるセミナーは、ルジェ社の歴史を遡ることからはじまった。
濃厚なエキストラヴァージンカシスジュース。
ルジェ・ラグート社があるのはフランス東部のディジョン。そう、ディジョン・マスタードで有名なブルゴーニュ地方の玄関口だ。もちろんワインも名産であり、昔から高品質のカシスを生むエリアとしても知られてきた。
1836年、そんな豊かな食文化を持つディンジョンにおいて、オーギュスト・デニス・ラグートがルジェ・ラグート社を創業。その5年後の1841年には、近代的な製法によるカシスリキュール(クレーム・ド・カシス)の開発に成功した。
1858年にはラグートの娘婿にあたるアンリ・ルジェが入社。彼が同社を世界規模の企業へと発展させた。社名のルジェ・ラグートとは、創業者とこの娘婿の名前から取られたものだ。
「ところで、カシスリキュールを使った最も有名なカクテルはなにか、お分かりですよね?」とアルブイ社長はセミナー参加者に問いかけた。
「そう、『キール』と『キールロワイヤル』です。実は我が社は『キール』と『キールロワイヤル』の商標登録を持っているのです」
カシスを使ったアペリティフ(食前酒)、「キール」が生まれたのは1950年代。当時、ディジョン市の名物市長であり国会議員も務めていたキャノン・フェリックス・キール氏は、招待客に対していつも「ルジェ カシスの白ワイン割り」を振る舞っていた。
このアペリティフは彼の名前をとって、いつしか「キール」と呼ばれるようになった。彼のお気に入りはいつもルジェ カシス。というわけで、1952年にキール氏はルジェ・ラグート社に対して「キール」と「キールロワイヤル」の独占的な使用を正式に認めた。
つまり、ルジェ・ラグート社は「キール」および「キールロワイヤル」の商標を持つブランドオーナーというワケだ。
続いて、アルブイ社長の話はブランド哲学と製造のこだわりに移っていった。
「我が社の哲学は非常にシンプルです。“リスペクトフルーツ”。この一言に尽きます」
例えば、カシスリキュールに関していえば、大きく3つのポイントが挙げられるという。
① 原料となるカシスは100%フランス産。しかも100%契約農家産。
使用するのは、ノワール・ド・ブルゴーニュとブラックドーンの2種類のみ!
② カシスのマセレーション(浸漬)は8週間以上(一般的には5週間程度)。
時間をかけて、カシスの果実味を凝縮した浸漬酒(バージンカシスジュース)をつくる。
③ 隠し味に、カシスの蕾から抽出したエキスを使用。
これは1841年から続く、世界でもルジェだけの独自製法。
「ちなみにこのカシスの蕾は、フランスの某有名ブランドの某有名フラグランスにも使用されています。それくらい香り高く、かつクオリティの高いカシスの蕾を、秘伝の隠し味として使用しているのですよ」
付け加えておくと、ルジェ・ラグート社のカシスリキュールはすべてEUで定められた原産地呼称「クレーム・ド・カシス・ド・ディジョン」を名乗ることを認められている。
もちろんカシスリキュール以外のプロダクツも、“リスペクトフルーツ”の哲学のもとで製造されている。
これまでルジェを何気なく使っていた方も、徹底したこだわりを知ることでルジェの美味なる理由をお分かりいただけたことだろう。
テイスティング用にカシスの蕾(手前)も提供された。
続いて、お待ちかねのテイスティングが行われた。
当日のスペシャルとして、カシスリキュールに使用するエキストラヴァージンカシスジュースが振る舞われた。
要はカシスの一番搾り。
ジュースといってもしっかりアルコールが入った浸漬液だ。
しかも機械による圧搾ではなく、カシス自体の重力だけで抽出されたものだという。
「皆さん、いかがでしょうか? これは酸味が特長的なノワール・ド・ブルゴーニュ種が2/3、ブラックドーン種が1/3のエキストラバージンカシスですから、少し酸味が強く感じられるかもしれません。でも酸味の気品と、その奥にある高貴な香り、自然由来のほの甘いニュアンスを感じてみてください」
確かに酸味は強い。
しかし、その奥にカシスの持つ自然の生命力とでもいうような味わいが感じられる。
会場からも、その新鮮な果実味に感嘆の声が漏れた。
その後、ノワール・ド・ブルゴーニュ種のエキストラヴァージンカシスジュースを100%使用した「ルジェ ノワール・ド・ブルゴーニュ」、それから1841年からつくられているカシスリキュールの元祖「ルジェ クレーム・ド・カシス」を試飲した。
さらには比較材料として、他社のカシスリキュール2品もテイスティングした。
ルジェのカシスリキュールは、酸味が強く高貴なノワール・ド・ブルゴーニュ種をメインとしているので、酸味がきれいに立っているのがわかる。
と同時に、ブランド哲学の“リスペクトフルーツ”を感じさせるプリミティブな果実味が際立っていた。
機会があれば、ぜひ他社のカシスリキュールと飲み比べてほしい。
プロフェッショナルなバーテンダー諸氏の舌であれば、その違いをお分かりいただけることだろう。
さらには「ルジェ グリーンアップル」と新発売の「ルジェ ピンクグレープフルーツ」も試した。
アルブイ社長はこの2つのリキュールの、フランスでの人気の飲み方を教えてくれた。
「グリーンアップルは、ディナーの後にディジェスティフ(食後酒)としてロックで飲むのがフランス流です。また近年、フランスで夏の定番といえるのが、ピンクグレープフルーツをロゼワインで割って飲むスタイルです。ぜひ、日本の皆さんにも試してほしいですね」
セミナー終了後、アルブイ社長に単独でお話を伺った。まずはルジェ カシスのフランス本国での飲まれ方を聞いてみた。
「圧倒的に、アペリティフとしての『キール』と『キールロワイヤル』です。フランスでアペリティフといえば、パスティスと『キール』『キールロワイヤル』が大定番といえるでしょう。最近は日本から逆輸入する形で『カシス・オレンジ』や『カシス・ティー(カシス・ウーロン茶のアレンジ)』も人気が高まっています」
例えば、パリのカクテルシーンでは、ルジェ カシスはどんな飲まれ方をしているのだろうか?
「ルジェ カシスは『キール』や『キールロワイヤル』を別にすれば、アクセント的に使われることが多いようです。例えばパリでも流行っているモヒートの砂糖代わりにカシスを使用したり、ブラッディメアリーの隠し味にカシスを使用したり……。そうそう、パリで最近人気のジャパニーズウイスキーと合わせることも多いですね」
アルブイ社長の個人的にお勧めの飲み方はあるのだろうか?
「ロックグラスで飲む『ルジェ・ノワール・ド・ブルゴーニュ』のクラッシュアイススタイルです。食後酒として、カシスの芳醇さをじっくり味わっていただきたいですね」
最後に日本のバーテンダー諸氏にメッセージを!
「ルジェは現在世界35カ国にリキュールを輸出しているのですが、最も大きいマーケットは実は日本です。ものづくりへのこだわりを理解し、クオリティの高いものに価値を見出す日本の方に選んでいただけるのは嬉しい限りです。バーテンダーの皆さんの協力を得て、もっと多くの日本の方に我が社のリキュールを楽しんでいただければ幸いです」
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