本を応援する立場で
本屋さんを営む。<前編>

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本を応援する立場で
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江口宏志さん from「UTRECHT/NOW IDeA/aMoule」

新しいカタチの本屋を次々と展開し、本にまつわるさまざまな活動を行う江口宏志さん。かつては「のんべい横丁」でブックカフェを営んでいたという同氏に、本のこと、仕事のこと、そしてお酒のことを伺った。

文:Teppei Wakayanagi

「そうですね。強いていえば『ブックファン』でしょうか」

肩書きをたずねると、江口宏志さんはそんな風に答えてくれた。

「本屋にはじまって、本の編集・制作・販売・流通、それからブックディレクションや雑誌へのブックレビューまで、本にまつわるあらゆることを仕事にしているので、なかなかピタっとくる肩書きがないんですよ」

「Fun(楽しみ)とFan(ファン)という2つの意味を込めて、自ら『ブックファン』といってるんですが、まったく定着していません(笑)」

江口さんは大学卒業後、大手通販会社に勤務。
時は90年代半ば。
インターネットが本格的に普及しはじめたこともあって、個人でもネットでビジネスができることを感じたという。
その後通販会社を退職し、98年、見よう見まねでオンライン古書店を立ち上げた。

「ネット書店のいいところは、僕個人の価値観で揃えた本を、評価して、購入してくれるお客さんがいるということ。これは励みになりました。逆に悪いところは、儲からないこと……(笑)。という訳で、しばらくは試行錯誤の日々が続きました」

そんななか2000年に、友人に誘われて、渋谷・のんべい横丁にブックカフェ「NON」をオープンさせた。
飲食店をやりたい友人と、古本屋をやりたい江口さんによる一石二鳥のプロジェクトだ。
この店が業界内外で話題となった。

「話題というほどではありませんが、いろんなところで取り上げていただきましたね。渋谷に取り残された下町のようなのんべい横丁に、ワケのわからない本を置いてる変なカフェができた!ってことで興味を持ってもらえたみたいです」

「もちろん本のセレクションは僕がやったんですが、オシャレなアートブックや洋書だけでなく、あえてエッチな写真集やカルト漫画なんかを置いてました」

「そこで感じたのは、お店のコンセプトを表現するのに本は非常に有効だ、ってことです。例えばバーであっても、どんな本を置いているかで、お店の醸し出す雰囲気がずいぶん変わってくると思います。コンセプトや哲学を表現するって意味では、本はインテリア以上かもしれません」

「それと、本はお客さんとのコミュニケーションツールになるなってことです」

「僕自身は接客が苦手だと思っていたんですが、本を介してだと、割とすんなりコミュニケーションがとれました。接客が苦手というバーテンダーの方は、お店に本を置いてみるというのもひとつの手かもしれませんね」

さて、ブックカフェ「NON」が忙しくなったことで、オンライン古書店はしばらく休止していたが、02年7月にオンラインブックショップ「UTRECHT」として再オープン。

さらに同年11月には代官山にリアルブックショップとして店を構え、05年にはショップを中目黒のマンションの1室に移転した。

「中目黒の店は完全予約制としました。予約して来店してくれたお客さんを1対1で接客しながら、本を売っていました。まあ、変な本屋ですね(笑)」

「今までの古本相場の価値基準じゃなくて、お客さんと話しながらその本にまつわるストーリー(情報)を提供したいな、と考えていました。極端な話、本自体は売れなくもいい、みたいな……」

この頃より、ショップ業務と並行して、自社出版物の刊行、ブックフェアの企画・運営、アパレルショップやホテルといった商業施設のブックディレクション、海外雑誌の国内流通業務、ラジオやトークショーへの出演なども行うようになる。

そして08年11月、青山に新たなショップ「UTRECHT/NOW IDeA」をオープンさせた。

「簡単にいうと、生きてる人の本屋さんをつくろう、と思ったんです。お亡くなりになった作家さんやアーティストじゃなくて、いま生きてる人の本屋さん」

「ここなら、ギャラリーもあるし、カフェもあるし、テラスもあるし、本づくりに携わっている『人』や『背景』をショールーム的に見せられるんじゃないかなって……。本よりも『人』を売る店にしたかったんです」

後編5月15日へつづく。

SHOP INFORMATION

UTRECHT/NOW IDeA/aMoule
東京都港区南青山5-3-8 パレスミユキ2F
TEL:03-6427-4041
URL:http://www.nowidea.info