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Bar×Bar×Bar WATARASE:
コーヒーカクテル世界一への挑戦。
- 前編 -
#Pick up
藤倉正法/Fujikura Masanori by「Bar×Bar×Bar WATARASE」
WCIGSC予選ラウンド1日目、プレゼンテーションを行う藤倉さん。「大会の4週間前に4種類のお酒が決定されますが、そこから英語でプレゼンを組み立てて、内容をすべて覚えて……という作業を、営業の合間に行うことが大変厳しかった」。
ついに掴んだ日本代表の座。
欧州スペシャルティコーヒー協会(SCAE)が立ち上げたWCIGSC(World Coffee In Good Spirits Championship)は、オリジナルコーヒーカクテルの最高峰を決めるコンペティションだ。
ヨーロッパをはじめ、中南米やオーストラリアから各国代表が参加して毎年行われているこの大会には、バリスタのみならず数多くのバーテンダーが挑戦してきた。
国内では、2013年にJCIGSC(Japan Coffee In Good Spirits Championship)が初開催され、以来、日本大会の優勝者が日本代表としてWCIGSCに出場している。
そもそもSCAEが主催するスペシャルティコーヒーに関するコンペティションには、ドリップ、エスプレッソ、サイフォン、ラテーアートなど計7競技あり、うち5競技で日本人の世界チャンピオンを輩出している。
一方、コーヒーカクテルに関しては2018年の日本代表鈴木ゆかりさんが決勝進出を果たし、6位にランクインしたのが過去最高位。他競技と比べると物足りない結果になっていた。
バリスタの世界大会においては100g当たり¥3,000~¥10,000の豆を使用する選手が多いなか、国内大会決勝、および世界大会予選においても、藤倉さんはあえて100g当たり小売600 円前後の豆を使用した。「それでも上位に食い込めるだろうと想定していました」。
今年、日本代表として世界大会に挑んだのは、「Bar×Bar×Bar WATARASE」のオーナーバーテンダー&バリスタの藤倉正法さんだ。
藤倉さんは、2016年ビーフィーターが主催するグローバルコンペティション、「BEEFEATER MIXLDN 2016」世界大会において、日本人として初めてファイナリスト(上位8名)に選出されたバーテンダー。
その後、コーヒーの勉強を始め、2018年からJCIGSCへの挑戦をスタート。2019年から4大会連続で決勝に進出、2019年、2020年大会では準優勝、2023年大会では3位と、3大会連続で表彰台に立ってきた。
そして今年、ついにJCIGSCでの優勝を果たし、日本代表として念願のWCIGSC出場を決めた、というワケ。
今年のWCIGSCは6月27日から3日間にわたって行われ、世界各地23カ国の代表が腕を競った。WCIGSCのレギュレーションは以下の通り。
予選ラウンドの初日は「スピリットバー」。サイコロを振って出た目のスピリッツを使い、競技時間内に1種類2杯のコーヒーカクテルを作成する。
予選ラウンド2日目は「ステージパフォーマンス」。競技時間内にコーヒーを使用したアルコールベースのドリンクを、ホットとコールドそれぞれ2杯ずつ、計2種4杯を作成する。
予選ラウンドの得点上位6名によって競われる決勝では、10分間の競技時間内で、アイリッシュコーヒー2杯とコーヒーを使用したアルコールベースのドリンクを2杯、作成する。
それではさっそく、予選1日目からレポートしよう。
予選スタート前。サイコロを振って(写真左)、カクテルに使用するスピリッツが決まる(写真右)。
まずは予選スタート前に各自、サイコロを振る。サイコロの出た目によって、コニャック、コルヘイタポート、ダークラム、マンダリンリキュールのいずれかを使ってカクテルを作成する。
「スピリッツが決まったら、5分間の準備の後、コーヒーの抽出を行い、上記のスピリッツを使ったカクテルを1種類2杯作ります。競技時間内は6分間。
このとき、指定のフィルターコーヒー用グラインダーを使用してコーヒーの抽出を行います。
また、オルサ社のシロップ6種(リンゴ、カルダモン、エルダーフラワー、ワイルドベリー、オルジェ、シュガーケーン)が使用推奨されていました。
ここで披露したカクテル『発酵大国』のポイントは、『発酵系プロセスのコーヒーと日本の発酵食品の相性の良さ』です」
「発酵大国」
①エアロプレスコーヒー 45g:使用した豆は、ブラジル産 フルッタ・メルカドン アナエロビックナチュラル
②ピエール フェラン コニャック 20ml:サイコロの出た目により本番直前に指定
③豆腐ピューレ(オルジェシロップ使用) 20ml
④梅干ピューレ(シュガーケーンシロップ使用) 20ml
⑤自家製発酵カカオ麹 5ml
⑥ソルティカルダモンフォーム(カルダモンシロップ使用) 1tsp(フロート)
これらを、氷を入れた切子グラスに注ぎ、着物スクラップコースターで提供した。
予選2日目、ヒノキの椀で提供したホットカクテル「Sake Bathtub」。藤倉さんの父が作ってくれたという椀が美しい。
藤倉さんは、指定の4種のスピリッツのうち、どれがあたってもバランスが取れ、かつ、フレーバーの方向性も変えられるよう、自家製の副材料(③〜⑤)を用意。
⑥に関しては、指定されたお酒によってフレーバーを変える作戦で、最終的にカルダモンを選択した。
続く予選2日目の「ステージパフォーマンス」。
大会の4 週間前に発表された「ステージパフォーマンス」指定のスピリッツは、テキーラもしくはメスカル。ここで披露するカクテルには、どちらかを使用しなくてはいけない。
10分間の準備の後、10分間の競技時間内でコーヒーの抽出を行い、コールドとホットのコーヒーカクテルを各1種類、それぞれ2杯ずつ作成する。
このうちどちらかにエスプレッソを使用する。
また、グラインダーやエスプレッソマシンについても指定機種あり、必ずそれを使用しなくてはいけない。なお、マシンの練習時間は直前に与えられる30分のみ。
パフォーマンスを行う藤倉さん。 今回、他国の競技者はバリスタがほとんどで、バーテンダーは藤倉さんとウクライナ代表の2名だけ。 エスプレッソの抽出技術や指定マシンを使いこなすハードルを考えると、バリスタの方がやや有利なのかもしれない。
「コールドカクテルは日本の家庭料理からインスパイアを受けたカクテルです。
現在のコーヒー業界では発酵系プロセスのコーヒーが当たり前になっていますが、一部の発酵系コーヒーに醤油や味噌のようなフレーバーを感じることがあります。
そこで、発酵系プロセスのコーヒーと、醤油、味醂、三温糖を使って、ジャパニーズホームクッキングカクテルを作ろうと考えました。
これを、私の父が作った陶器のカクテルグラスに注いで提供しました。
幼少期から父親の作った皿で食事をいただいていたという背景もあり、父の作った陶器が家庭料理の一部になっていたからです」
「Umami Espresso Martini」
①エスプレッソ 1/2 ショット:使用した豆は、ブラジル産 フルッタ・メルカドン アナエロビックナチュラル
②味醂(福みりん10 年熟成) 30ml
③カスカウィン アネホ 10ml
④自家製発酵ブルーベリー醤油 5ml
⑤アシッドソリューション 10ml
⑥自家製三温糖シロップ 15ml
ガーニッシュ:キンモクセイ
器:陶器のカクテルグラス
「一方、ホットカクテルでは、日本の温泉地で檜風呂に浸かりながら日本酒を飲むというエクスペリエンスを表現しました。
どぶろくや干し柿、葛湯といった、テクスチャーと高い粘性のある素材を使うことで、体を温めるカクテルを意識しています。
ヒノキの香りが漂う椀は、父に製作してもらったもの。そこにトロッとした質感のホットカクテルを注ぎました」
「Sake Bathtub」
①エアロプレスコーヒー 60g:使用した豆は、ブラジル産ゴールデン・レーズン アナエロビックウォッシュド
②中埜酒造 國森 純米どぶろく 20ml
③カスカウィン アネホ 10ml
④干し柿&阿波番茶ピューレ 20ml
⑤甲州オレンジワインシロップ 10ml
⑥葛湯 30g
⑦ヒノキティンクチャー 2dash
ガーニッシュ:金箔、稲穂
器:ヒノキの椀を使用、三方に乗せる。三方の中にSmokeNinja のスモーク。
「プレゼンテーションでは、日本人が食事の前に『いただきます』と言って食材や生産者に感謝を伝える習慣があることを紹介。『いただきます』という一言がもたらしてくれる素晴らしいドリンク体験のことをお話ししました」
後編ではこうしたカクテルと、バーテンダーらしいプレゼンに対するジャッジからの評価、そして、藤倉さんが考えるこの大会の攻略方法をご紹介します。
後編に続く。
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