PICK UPピックアップ
ラテン・スピリッツの次はジャパニーズ・スピリッツ!
NYのインポーター、「HIGH ROAD SPIRITS」の挑戦。
– 前編 –
#Pick up
林ゆの/HAYASHI YUNO, エリック・スワンソン/Eric Swanson by「HIGH ROAD SPIRITS」
「獺祭」の旭酒造を訪れた際の林さん(左端)とエリックさん(左から2番目)。
HIGH ROAD SPIRITSは、日本を中心に世界7カ国のウイスキーやスピリッツを扱うインポーター。
ジャパニーズ・ウイスキーをアメリカに紹介したパイオニア的存在と言えるだろう。
現在取り扱うのは、あかし(江井ヶ島蒸溜所)、嘉之介蒸溜所、秩父蒸留所、マルスウイスキー、厚岸蒸留所に、季の美、小正醸造のジン、THE JAPANESE BITTERSのビターズ、焼酎のだいやめなど。
同社のオーナーを務めるのは、林ゆのさんとエリック・スワンソンさん。
2000年代初頭から日本酒を取り扱い始め、その後、日本食レストランのコンサルタント業にも携わるようになった2人が、ジャパニーズ・スピリッツを扱うようになったわけは……?
「イチローズ・モルト」のプライベートボトル。ラベルに描かれているのは、二人の愛犬でHIGH ROADの非公式キャラクター、グレートデーンのスクービー。
「日本酒も当初はまったく反応がありませんでしたが、和食ブームに伴って徐々に認められるようになり、日本のプロダクトを海外のマーケットに紹介するおもしろさを感じるようになりました。
日本酒がひと段落したところで次のプロダクトを探すようになりました。2008年ごろでしょうか」(林さん)
そのころのアメリカは空前のウォッカブームに沸いており、ジャパニーズ・ウォッカでもやってみようか、なんて考えていたそうだ。
一方のエリックさんはいまから30年前、初めて東京のオーセンティックバーに足を運び、日本のバーのスタイルやサービスの大ファンになった。
「5、60代のバーテンダーがカウンターに立つオーセンティック・バーで、バックバーにものすごい数のシングルモルトウイスキーが並んでいたのを覚えています。
いろいろ飲ませてくれながら彼が語るストーリーがおもしろく、さっと作ってくれたカクテルもすばらしかった。
こういう日本独自のカルチャーを世界に広めるために、なにができるだろうかと考えたものです」
今年、ブース出展した「ブルックリン・バー・コンベンション(BCB)」の様子。
いち早く目をつけたジャパニーズ・ウイスキー。
そんなバックグラウンドをもつエリックさんが「日本酒の次に可能性のあるプロダクト」として見つけてきたのは、なんとウイスキー。
日本ではちょうど、サントリーが角ハイボールのプロモーションを始めたころで、つまりハイボールブーム黎明期だ。
「日本でウイスキーに注目が集まり始めていた時期だったんだと思いますが、私はまったくピンと来なくて、『日本のウイスキー??』と半信半疑でした。
けれどもエリックがぜひ行きたいというので、秩父蒸溜所を訪ねたんです。これをきっかけにすべてが変わりました」
当時の秩父蒸溜所は製造免許を取得したばかり。造りたてのニューメイクを試飲させてもらったら、びっくりするほどおいしかった。
「これはぜひ取り扱うべきプロダクトだ」と感じた2人は、肥土伊知郎さんをアメリカに招待。こちらの市場を見てもらうことから関係作りを始めた。
スピリッツの世界ではまったく実績のない二人が日本の造り手たちと新たに取引を始めるために、まずは関係構築が大切だと思ったからだ。
こちらもアメリカ仕様に開発した商品。「あかし」のRTDハイボール。
「イチローズモルトでジャパニーズ・ウイスキーに開眼した私たちは、その後も気になる蒸溜所を巡るようになりました。
女性と外国人という組み合わせですから、門前払いを食らうところも多かったんです。
運良く面会にまでこぎ着けても、なかなか信用されない。何度も通ってこちらの真剣度をアピールしました」(林さん)
その甲斐あってか、江井ヶ嶋酒造では忘れられない経験をした。
「私たちと取引してほしいとお願いしたものの、そのときは大口の先約が入っていてこちらに出してもらえるウイスキーはなく、『1、2年後に戻っておいで』と言われました。
口約束と思いましたが、その1、2年の間にアメリカの別の会社から引き合いがあったそうですが、私たちとの約束を優先して断ってくださったとか。
誠意あるビジネスの姿勢にものすごく感銘を受けました」(林さん)
LAの有名なウィスキーバー「 Seven Grand」では、イチローズ・モルトの勉強会を開催。
アメリカ向けに開発するプライベートボトル。
そんなふうに手探りで始まったジャパニーズ・スピリッツ・ビジネスには、“アジアのトレンド発信基地”である日本の動向分析が欠かせない。
最新の日本のトレンドをいち早くキャッチし、それをアメリカにフィードバックする。
日本のトレンドをそのままもっていってもアメリカの市場で受けるわけではないので、それぞれのプロダクトの魅力や独自性を、アメリカの消費者の心を捉える見せ方やストーリーに載せて紹介する。
アメリカの市場に向けて開発するプライベートボトルでは、アメリカのマーケティング戦略に沿ったラベルをあしらう。
ウォッカやジンの場合、アメリカの消費者に合わせたフレーバーに調整してもらうこともある。
価格も少しだけ抑えめに。
アメリカ人の消費者が好むパッケージで、かつ手軽に飲める値段のプライベートボトルを揃えてエントリーモデルとし、まずは造り手を知ってもらう、ファンになってもらう。
そこからもう少しだけ高価なオリジナルラインに興味をもってもらう、という仕掛けだ。
つまりマーケターとしての手腕も問われるのだ。
後編に続く。
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