サトウキビ栽培からボトリングまで!
種子島発、アグリコールラム「ARCABUZ」誕生。
- 前編 -

PICK UPピックアップ

サトウキビ栽培からボトリングまで!
種子島発、アグリコールラム「ARCABUZ」誕生。
- 前編 -

#Pick up

木村成克/Kimura Shigekatsu by「 大東製糖種子島」

今月ご紹介するのは、今年7月にローンチしたばかりの種子島発のアグリコールラム「ARCABUZ(アーキバス)」。なぜ種子島でアグリコールラムを?誕生の背景に迫ります。

文:Ryoko Kuraishi

「サトウキビの個性を感じてほしい」というホワイトラムで勝負!

2023年の春に種子島で蒸留を開始し、今年7月に一般発売をスタートした「ARCABUZ」。

手がけるのは、関東にある創業73年の製糖メーカー、大東製糖だ。

近年、健康のために摂取量を控えるべき、なんて言われてしまう砂糖だが、中規模製糖メーカーとして砂糖の可能性を広げるべく、さまざまな使い方やこれにまつわる食文化を提案しており、ベーカリーやレストランを展開。

その一環として生まれたプロジェクトが、アグリコールラムだった。

「製糖メーカーの役割は、仕入れた原料糖(サトウキビの汁を搾り、一部不純物などを取り除いて結晶化させたもの)を精製して製品を作ること。

つまり私たちはサトウキビを直接、扱うことはありません。けれども、消費者は製糖メーカーに対し、砂糖のプロフェッショナルとしてサトウキビにも通じていることを求めているように思います。

私自身、サトウキビ栽培から製品づくりに携わることが製糖メーカーとしての付加価値につながると思い、チャレンジしてみようと思いました」(代表取締役社長の木村成克さん)

製糖メーカーからラムの造り手へ!大東製糖種子島の木村成克さん。

Farm to Bottle-サトウキビ畑からボトルまで-

糖蜜ではなくサトウキビ搾汁液をそのまま発酵させて蒸留するアグリコールラム製造に思い至ったのは、サトウキビの香りが漂うアグリコールラムは植物由来のプロダクトであることをアピールできると考えたから。

砂糖の消費量が減っているいま、原材料であるサトウキビに関心をもってもらうことにつながるかもしれない。

加えて、種子島のサトウキビ産業を支える付加価値を創出する可能性も見込んだ。

まずはサトウキビ栽培だ。2017年にプロジェクトを立ち上げると、サトウキビ栽培が盛んな種子島で6ヘクタール(12万m2)の農園と製糖工場を譲り受けた。

サトウキビ栽培は制度上の制約が多いのだが、地元当局とさまざま取り決めを交わしてこれをどうにかクリア。

製糖用のサトウキビは収量を重視して品種改良されていることから、味わい重視でアグリコールラムに適した品種の選定から行った。

何十種ものサトウキビの搾汁液を飲み比べたなかで木村さんたちのお眼鏡にかなったのは、園芸品種の「黒海道」。これを中心に、「農林22号」という品種も加える。

収穫したサトウキビ。ショ糖濃度が高まる12〜2月が収穫時期だ。5トンのサトウキビから2.5トンの搾汁液を搾り、そこから300リットルのラムを造ることができる。つまり6000リットルのラムを得るためには100トンのサトウキビが必要で、それには2ヘクタール(2万m2)の農地が必要とか。

「私たちにとって初めての農業事業となるサトウキビ栽培は困難の連続。

せっかく植えたサトウキビの苗をシカに食べられ、全滅してしまった年もありました。

試行錯誤してようやく、現在は290トンほど収穫できるようになったんです」

種子島の収穫時期は12〜2月。翌日加工する分だけのサトウキビを収穫し、畑に隣接する蒸留所に運んで24時間以内に搾る。

一刻も早く加工するのは、時間が経つにつれてサトウキビ内のショ糖濃度が下がってしまうから。

「収穫したサトウキビを一本ずつ選別し、えぐみや苦味のもとになる虫食い部分を弾きます。

こだわっているのは、最高においしいサトウキビジュースを搾ること。『黒海道』の搾り汁は、メロンを思わせる瑞々しい味わいです。

しかも、通常3回搾るところを、最も糖度が高い一番搾りだけを使ってもろみを作ります」

収穫したサトウキビは畑の隣にある蒸留所へ運び、人の手で選別される。搾った後のバガスは堆肥化して農園に撒く。サトウキビの繊維(セルロース)は硬くて土に還るのに時間がかかるため、分解速度を速める方法を研究者とともに模索中だ。

サトウキビの個性を生かし、加水もブレンドもしない。

搾汁液に酵母を加えて約1週間かけて発酵させてもろみを造り、蒸留する。蒸留技術については同じ鹿児島県にある小正醸造に協力を仰いだ。

味、香りともにもっともよい部分のみを製品とし、加水は一切行わず、ロットごとの原酒のままボトリングする。通常は複数のロットをブレンドして味わいの均質化を行うが、それもしない。

「なるべくそのまま、あるがまま。余計なことをするとおいしくなくなってしまうので」と木村さん。というわけで、「ARCABUZ」はロットによりアルコール度数が異なっている(57〜60%)とか。

搾汁したサトウキビジュース。一番搾りのみを発酵させてもろみを作る。今後、基幹事業である砂糖製造でできた糖蜜を、ラム製造を行いたいという国内メーカーに供給することも考えている。

こうしていよいよお披露目となった「ARCABUZ」。

まずは、サトウキビジュースの味わいをストレートに伝えるホワイトラムのみで勝負に出た。

5月に行われたラムの品評会「World Rum Awards」では「World’s Best Agricole &Sugarcane Juice」金賞、「Best Bottle Design」最高賞を受賞!

品評会での審査員評では、「新鮮なグリーンオリーブ、草、リンゴ、キウイが感じられる。口に含むとロウのような質感と適度な甘さがあり、新鮮なサトウキビを砕いたような香りがする」というコメントが残されている。

そのインプレッションとは……?

後編に続く。

SHOP INFORMATION

大東製糖種子島
891-3602
鹿児島県熊毛郡中種子町牧川536
URL:https://www.arcabuz-rum.com

SPECIAL FEATURE特別取材