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調味料から飲みものへ、みりんをアップデート。
“糀のリキュール”「Me」って?
- 前編 -

PICK UPピックアップ

調味料から飲みものへ、みりんをアップデート。
“糀のリキュール”「Me」って?
- 前編 -

#Pick up

木村倫太郎/Kimura Rintaro from「神田豊島屋」

日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術がユネスコ無形文化遺産に登録され、ますます注目を集める日本の伝統酒作り。日本酒、焼酎、泡盛に続く第四の酒として注目したいのが、みりん!「糀のリキュール」を謳うみりん「Me」ってどんなもの?

文:Ryoko Kuraishi

開発責任者の木村倫太郎さん。

みりんの歴史を振り返る。

焼酎とこうじ(糀、麹)で仕込まれるみりん、その起源は1590年ごろといわれている。

江戸時代には焼酎にみりんを加えた甘いカクテル、「柳蔭」が大ブームに!大衆の酒というより高級酒なのだが、まろやかな飲み口から女性の間で人気を博したそう。

1867年に開催された「第二回パリ万博」の日本パヴィリオンでは、日本酒ではなくこの「柳蔭」がヨーロッパの人々の振る舞われたという(ちなみに、日本酒がパリ万博に出品されたのは1878年のこと)。

「みりんは調味料」……なんてことを言われるようになったのは、昭和30年代に入ってから。

調味料として流通させることで大幅減税が可能になり、一般家庭に広く流通。

さらにみりん風調味料(米・米麹の醸造調味料などに水あめなどを加えたもの)のような類似品も現れたことで、いつしか飲み物であることが忘れられてしまったようだ。

江戸時代、みりんにもち米や麹をすり潰して仕込んだ「豊島屋の白酒」が大人気!売り出しの日には夜明け前から大行列ができたそうで、その様子は『江戸名所図会(江戸時代後期、出版:斎藤月岑、絵:長谷川雪丹)』の「鎌倉町豊島屋酒店 白酒を商う図」にも描かれている。

伝統的なみりんをリキュールとして蘇らせたのが、神田豊島屋の「Me」。

とろりとした蜜のようなリキュールである。すっきりした、かつアルコール感のある甘酒、といえばわかりやすいだろうか。

砂糖や糖類は無添加。まろやかな甘みは麹菌がもち米に含まれるでんぷんを糖化したもので、砂糖やシュガーシロップにくらべるとキレがよい。

一般に流通する本みりんとは異なり、醸造アルコールではなく本格焼酎で仕込まれている。

開発責任者の木村倫太郎さんが、リキュールとしてのみりんの可能性に思い至ったのは、パリのバーで、性別・年齢を問わず、さまざまな人が甘いカクテルを口にしていたのを目にしたから。

東村山にある酒蔵、「豊島屋酒造」。東京で唯一のみりん蔵でもある。

カクテルにマッチするみりん!

「甘みのあるリキュールとしてアピールすれば、日本酒と同じくらいみりんにもチャンスがあるかも」
「カクテルに加える甘みを砂糖不使用で低GIのみりんでつけるという提案は、これからの時代、ウェルネスのニーズにもマッチするのでは」

そんな思いを抱き、帰国後、すぐにみりんの新ブランドローンチに向け、東村山にある蔵(豊島屋酒造)とともに新規開発をスタートした。

まったく新しいみりん、その開発コンセプトは「温故知新」。

「私自身、『江戸時代には高級酒として飲まれていた』くらいのエピソードしか知らなかったのですが、調べてみると飲みものとしてのみりんもさまざまに変遷を遂げていました。

そもそもの原点は、焼酎に米麹を漬けて搾ったもの。後年、さらに甘みを加えるためにもち米を使うようになったようです。

こうした背景に則り、新しいみりんは江戸時代の製法に忠実に、米麹・もち米・焼酎のみで造ろうと考えました」

内神田にある「豊島屋Rita-Shop」。

原材料にもこだわった。使用するのはいずれも国産の、米麹、もち米、本格焼酎(熊本の球磨焼酎)のみ。

おり下げ剤を使わず、無濾過で製造する。

1960年代までは生酒として全国に流通していたみりんだが、生産性を向上させるために加水やおり下げ剤(おりを沈殿させて透明度をあげるために添加する溶剤)を添加するようになった。

そのために生酒の状態で流通できず、火入れが必要になったという経緯がある。

現在、一般に流通するほぼすべてのみりんには火入れがされているが、「Me」は火入れをせず、搾った原酒をじっくりと熟成させた後にボトリングしている。

「Me」は2タイプがラインナップ。左は「Me 無濾過生原酒 おりがらみ」(¥2,640)、しぼりたてをすぐに瓶詰めすることにより、米糀のもろみ由来の白いおりが程よく混ざったおりがらみタイプ。右は「Me 無濾過生原酒 」(¥2,420)。

「ドリンクのクオリティを考えれば、わざわざ加水したりおりさげ剤を加えたりという必要はありません。

火入れをしないので、麹の栄養成分をそのまま摂取していただけます。

おりも、人工的に下げるのではなく、自然に下がってくるのを待ちます。ナチュラルワインで謳われる『No Fining』と同義です。

おりが下がるまで数ヶ月〜半年かかりますが、のんびり待つしかありません(笑)」

2021年、コロナ禍まっただなかに販売をスタート。
少しずつバーに広まっていく。

後編に続く。

SHOP INFORMATION

神田豊島屋
東京都千代田区内神田1-3-1
TEL:+81-3-5283-1871
URL:https://me-toshimaya.com

SPECIAL FEATURE特別取材