PICK UPピックアップ
お酒の美術館:消費者と造り手をつなぐPBで、
ジャパニーズウイスキーを盛り上げる。
– 後編 –
#Pick up
Nagata Takashi/長田隆志 by「お酒の美術館」
江井ヶ嶋蒸溜所を訪れた時の様子。(写真提供:くりりん)
「お酒の美術館」がはじめてプライベートブランド(PB)ウイスキーを発売したのは2022年のこと。
いずれも日本国内のウイスキー蒸留所とのコラボ製品で、現在(2024年4月)、3蒸留所・計5種類のPBウイスキーがリリースされ、「お酒の美術館」の店舗のみで提供されている。
「日本には100を超える蒸留所があり、個性豊かなウイスキーが造り出されています。
なかでも、中小規模の造り手がこだわりを形にしたクラフトウイスキーはまさに個性の塊です。
そうしたウイスキーを多くの人に知ってもらい、より気軽に味わってほしいという思いを抱いていました。
また、ジャパニーズウイスキーを多く扱うバーとして、さまざまな造り手を知り、深くお付き合いしていきたいというねらいもありました」(「お酒の美術館」事業統括本部長の長田隆志さん)
こうしてスタートしたPBプロジェクト。蒸留所および原酒の選定とブレンド、テイスティングには、お酒の美術館の常連であり、多くのメーカーや蒸留所においてウイスキーの選定、ブレンド実績をもつウイスキーブロガー、くりりんさんの協力を仰いだ。
くりりんさんが「瀬戸内のブナハーブン」と呼ぶ江井ヶ嶋蒸溜所は、近年、評価が高まっている注目の蒸留所。造り手と交流を深められるのもPBの醍醐味だ。
PBをきっかけに、タッチポイントを増やす。
「『お酒の美術館』は長くウイスキーを嗜んできた愛好家からこれからウイスキーのことを知ろうというライトユーザーまで、客層が幅広いという特徴があります。
ココでしか飲めない独自のリリースが『お酒の美術館』の全店舗で提供されれば、こだわりをもった造り手と、そのウイスキーも知ってもらうきっかけになる。
まさに“つなぐ仕掛け”となって、ウイスキーシーンのさらなる盛り上がりにつながるのではないかと考えました」(くりりんさん)
「お客さまのなかには『山崎』や『響』といった有名銘柄しか知らないという方も少なくありません。
だからこそ、当店で日本のクラフトウイスキーの魅力をアピールする価値はあると思いました」(長田さん)
2022年4月、滋賀県の長濱蒸溜所とコラボしたPB第一弾では、ブレンデッドウイスキー「発刻(はっこく)」、「祥瑞(しょうずい)」を発売。
どちらも、同蒸溜所で蒸留、熟成されたモルト原酒と同社が輸入したスコッチグレーン、スコッチモルトを用いている。
ブレンド比率の違いにより、「発刻」は力強いスモーキーさとシェリー樽原酒に由来する深みのある甘さが、「祥瑞」は軽やかなフルーティーさと麦芽風味が表れている。
共通する原酒が使われているにも関わらず、これだけ大きな違いが生まれるブレンドの奥深さもこのPBの特徴だ。
「お酒の美術館」PB第1弾、第2弾が勢揃い。左から「発刻」、「祥瑞」、「琥月」、「姫兎」。
続いて‘23年9月には、PB第2弾となる兵庫県の江井ヶ嶋酒造(江井ヶ嶋蒸溜所)とコラボした「琥月(こげつ)」と「姫卯(ひめうさぎ)」を発売。
「琥月」は5年間オロロソシェリー樽で熟成された単一のモルト原酒、つまりシングルカスクのジャパニーズウイスキーで、シェリー樽に由来するビターチョコレートのような色濃い甘さとほろ苦さに、勢いのあるモルトの風味が特徴。
一方ブレンデッドウイスキーの「姫卯」は、「琥月」をキーモルトとし、江井ヶ嶋蒸溜所が保有するスコットランド産のモルトウイスキー、グレーンウイスキーをブレンドしたワールドブレンデッドウイスキーで、より親しみやすい味わいとなっている。
「当初、ブレンデッドウイスキーのみを造る予定でしたが、キーモルトの候補をテイスティングした長田さんから、シングルモルトのリリースも、という希望があり、候補となる原酒群からシングルモルト用の原酒を選んだうえで、ブレンドの比率を探っていくことになりました。
結果、キーモルトとブレンドしたものを両方楽しめるようになりました。飲み比べとしても面白く、PBだからこその魅力を持ったリリースとなりました」(くりりんさん)
「シェリー樽の豊かな風味の中に蒸溜所の個性が感じられるおもしろい仕上がりになっており、第一弾に続いてコアなウイスキーファンからも高く評価いただいています」(長田さん)
SAKURAO蒸留所における『龍流』のブレンド風景。10パターンほどを試作してその中から3種に絞り、「お酒の美術館」の店長会議での投票を経てレシピが決定する。
最新のPBは、単一の蒸留所で造られた原酒100%のブレンデッド。
最新の第3弾は、広島県のSAKURAO蒸留所とのコラボにより誕生した「龍流(りゅうりゅう)」(トップ写真中央)。
今回のPB では、同蒸留所で蒸留され、瀬戸内海沿いの桜尾熟成庫および山間の戸河内熟成庫で熟成されたノンピートモルト原酒、ピーテッドモルト原酒に、SAKURAO蒸留所独自の設備で造られたグレーン原酒をブレンド。
単一の蒸留所で造られた原酒だけで構成されているブレンデッドウイスキーは、世界的にも珍しい。
SAKURAO蒸留所は、2008年から自社蒸留原酒と輸入原酒を使ったブレンデッドウイスキー『戸河内』をリリースしていたが、2023年に原酒の構成を全て自社蒸留&熟成のものに見直す大幅リニューアルを実施したことは記憶に新しい。
国産グレーンウイスキーの調達が難しいことから、中小規模のウイスキー蒸留所のブレンデッドウイスキーは輸入原酒を用いるものが一般的であるなかで、このリニューアルはジャパニーズウイスキー業界に一石を投じるものであった。
「今回のPBでは、まさにその原酒を用いて、2021年に定められた“ジャパニーズウイスキーの定義“に合致するブレンデッドジャパニーズウイスキーをリリースしたいと考えました」(くりりんさん)
ブレンド構成は、ハイボールでもすっきり飲めて、かつ蒸留所の個性を感じられるもの、という『お酒の美術館』からのオーダーに応え、あえてシェリー樽原酒を使わず、バーボン樽とミズナラ樽だけで仕上げている。
「華やかでエステリー、軽やかなスパイシーさとフルーティーさの中にスモーキーなピートの風味が感じられる。SAKURAO蒸留所の個性を存分に楽しめるブレンドに仕上がったと自負しています」(くりりんさん)
PB第3弾となる「龍流」。
ジャパニーズウイスキー・シーンを盛り上げたい。
『お酒の美術館』では、こうしたPBを今後も続けていく予定だという。
しかし、近い将来、ジャパニーズウイスキーは淘汰の時代に入ると考えられている。そうした中では、いいものが正当に評価されるとは限らない。
「だからこそ、いいものは高く評価されてほしいと願っています。僕自身が愛好家ですから。
作り手のこだわりや工夫がある、品質を高める努力をされている……。悪いものを造ろうとしている人はいないと思いますが、こだわりの有無は別です。そしてそれらはユーザーの手元に製品や情報が届かなければ、評価されることはありません。
こうしたPBを通じて小規模だからこそ可能な、大手とは異なるアプローチ&スタイルがある造り手たちの、魅力発信のお手伝いを続けていきたいと思います」(くりりんさん)
一方で長田さんは、同社のPBを一般消費者がウイスキーの魅力を知るための道標にしたいと考えている。
「先ほど、日本国内のウイスキー蒸留所の数を100か所と言いましたが、これだけ数があると何を選べばいいかわからないという方も少なくないでしょう。
そんなとき、さまざまな個性を備えたジャパニーズウイスキーを気軽に飲み比べられるPBで、ご自分の好みを探っていただければと思います。
PBをきっかけにウイスキーの味わいに親しんでいただき、『お酒の美術館』という場所から造り手たちの物語をお客さまに発信する。
このようなアプローチで、バー文化の裾野を広げることに貢献したいと考えています」(長田さん)
日本のウイスキーシーンは今後、ますます多様なウイスキーが登場することが予想される。
その中で、『お酒の美術館』のPBがどのようにつながりを紡いでいくのか。第4弾以降のリリースにもご注目ください!
SHOP INFORMATION
お酒の美術館 | |
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(三条烏丸本店)京都市中京区御倉町79 文椿ビルヂング 2F TEL:075-746-6909 URL:https://osakeno-museum.com |