PICK UPピックアップ
天鏡蒸溜所:会津の風土が醸す
オーセンティックウイスキー。
– 後編 –
#Pick up
Onuma Takashi/大沼孝 by「天鏡蒸溜所」
チーフブレンダーを務める成田恵一さん。長く日本酒造りに携わった、発酵のプロフェッショナル。
4通りの酒質を造れる、創業者こだわりの設備。
さて、3月26日に稼働を始めたばかりの「天鏡蒸溜所」内部を、天鏡株式会社の大沼孝専務に案内してもらおう。
昨年秋に竣工したばかりの施設は榮川酒造のボトリング工場の一角を改修したもので、蒸留所部分の面積はおよそ770㎡。
図面は小池さんと、彼の親友で蒸留所巡りを共にしたスコットランド人、スコットランドのコンサル会社の3者が引いたもの。なんと19回も書き直したというこだわりの設計だ。
設備を決めたのも小池さんで、中古のモルトミル以外は全てフォーサイス社製。
小池さんが何度もフォーサイス社に足を運び、細かな仕様を考えたそう。
発酵槽はベイ松製とステンレスの2種を備えている。
スコットランドの多くの蒸留所が使っているポーティアス社製のモルトミル。小池さんが現地のツテを頼って譲り受けたものだ。
さてポットスチルはといえば、初留釜2基と再留釜を2基の計4基を設置し、しかも初留釜は直火炊き!
「料理をおいしくするのは直火である」という小池さんのこだわりから、あえて電気ではなく直火を採用したとか。
さらに、初留と再留の冷却装置はそれぞれ、片方がワームタブ、もう片方がシェル&チューブ・コンデンサーと、あえて仕様を変えている。
4通りの酒質を造れる設計になっているのだ。
“クラフト”の域を凌駕する設計も、「あらゆる酒質を手がけたい」という小池さんの強いこだわりだったとか。
「リオン・ドールコーポレーション代表の小池と亡くなった小池駿介がウイスキー事業立ち上げの際に考えた構想は、“300年続く酒づくり”でした。
確かにクラフトの規模ではないですが、300年先の未来を考えるとこのくらいの規模・設備は必要だったのだろうと思います」(大沼さん)
フォーサイス社製のポットスチルは初留釜2基と再留釜を2基の計4基を設置。
スコットランドを思わせる酒質×会津の地域性。
これだけの設備を備えた「天鏡蒸溜所」、大沼さんたち製造スタッフが意識しているのは、コンセプトと酒質がぴったり合致していること、そして地域性を取り入れること。
目指すのは、小池さんが惚れ込んだスコッチの酒質だ。
一方で、ジャパニーズウイスキーとしての“地域性”、つまり会津の気候風土をしっかり反映させたい。
チーフブレンダーを務める成田恵一さんはこの地で長く日本酒造りを行っている「榮川酒造」の技術者で、杜氏の資格ももつ、いわば発酵のスペシャリスト。
「木製の発酵槽を使うので、これに棲む乳酸菌や野生酵母といった微生物がどんな働きをみせてくれるのか、いまから楽しみ」というから、この蒸留所に育まれる微生物由来の香気や個性を備えた、スコッチを思わせる酒質を期待できそうだ。
4月1日に初蒸留したばかり。
発酵のスペシャリストが知見を生かす。
「酒造りだけでなく、たとえば『秩父蒸溜所』のような、地域との取り組みを大切にする姿勢も見習いたいと考えています」(大沼さん)
原材料は国産麦芽にスコットランド産大麦が中心だが、「いずれは会津産の大麦にこだわった商品も手がけていく」というのは、地域性を大切にする姿勢の現れと言えるだろう。
……と、期待感が高まる「天鏡蒸溜所」のウイスキーだが、小池さんが長期熟成を目指したということもあり、10年熟成させた商品もリリース予定だ。
それまでは前編でご紹介した、ブレンデッドウイスキー「風」でお楽しみください、と大沼さん。
複数の原酒をブレンドした「風」を大沼さんと一緒にテイスティング。2026年までは本数限定でのリリースとなりそう。
スコットランドで仕入れたニューメイクを会津で樽詰めしたこちら、盆地特有の寒暖差が激しい風土が理由なのか、想像以上に熟成が進んでおり、特にシェリー樽については樽詰めしてわずか半年後にはばっちり色づいていたそう。
試飲させてもらったシェリー樽の1.5年熟成は早くも、シナモンを思わせるスパイシーな香りをまとわせていた。
2.5年ものはシェリー樽特有の香りに甘いフルーツのニュアンスとなめらかさが伴っていて、その完成度にびっくり。
スコットランドから招聘している技術者をしても、この現象のメカニズムを解明できていないとか。
現在、想定以上に熟成が進んだものは随時、樽の入れ替えを行っており、今後もコントロールしながらベストのタイミングを見極めていくそう。
「小池駿介の夢と情熱を引き継いだ私たちが、会津ならではのジャパニーズウイスキーを造り、その魅力を世界に届けていきたいと思います」(大沼さん)
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天鏡蒸溜所 | |
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