PICK UPピックアップ
世界を驚かせた
Mr.アイスマンと呼ばれる
日本人バーテンダー。<前編>
#Pick up
鈴木隆行さん by「bar a vins tateru yoshino Park Hotel Tokyo」
@London Bar Show 2009
昨年開催された「ロンドン・バー・ショウ2009」に、ひとりの日本人バーテンダーがパフォーミングアクトとして招待された。
今回取材した鈴木隆行さんだ。
鈴木さんがショウで披露したのは、日本人バーテンダーにとっては定番の、そして海外のバーテンダーにとってはほとんど馴染みのない「丸氷」。
鈴木さんは、日本の氷の歴史や日本人の氷に対する価値観を説明しながら、約100個の丸氷をつくり、オーディエンスに山崎12年のオンザロックを振る舞った。
「アメリカ人のようなわかりやすい反応ではありませんでしたが、ロンドンの人々も丸氷や日本の氷の文化に興味をひかれたようです。
盛んにデジカメや携帯電話で撮影していました。
それからパフォーマンスの後も質問攻めがすごかったですね」と鈴木さんは、当時の様子を振り返りながら語ってくれた。
「このショウに参加させていただいて改めて感じたのですが、やはり氷の文化という意味では、日本は相当クオリティーが高いです。
日本書紀の時代から天然氷という文化があり、どの町にもハイレベルな製氷業者がいて、コンビニに行けば簡単にロックアイスが買える。
こんな国は他にないですよ」
「ロンドン・バー・ショウ2009」における鈴木さんのパフォーマンスは、ヨーロッパ中から集まったバー関係者に衝撃を与えた。
メディアにも盛んに取り上げられ、いつしか鈴木さんは「Mr.アイスマン」として海外で知られる存在になっていった。
現在、鈴木さんは「カクテル・ライフ・デザイン・オフィス」を主宰し、ディレクターとして活躍している。
主な活動内容は、まず「芝パークホテル」と「パークホテル東京」、この2つのホテルのバーのマネージメント業務。
カクテルメニューを考案し、スタッフ教育を行い、もちろんカウンターにも立つ。
それから芝パークホテルにて、定期的にバースクールを開講している。
そのほか、前述した「ロンドン・バー・ショウ」のようなイベントでのパフォーマンス、サービスおよびホスピタリティーに関する講演、飲食店のプロデュース業などを行っている。
さらには、自身の経験をもとにした小説『パーフェクト・マティーニ』を上梓していたりもする。
それにしても、鈴木さんはどのようにして現在のポジションにたどり着いたのだろうか。
@Whisky Magazine Live Tokyo
「バーテンダーになりたいとはまったく考えていませんでした。昔から考えていたのは、とにかく海外に出たい、ということでしたね」
鈴木さんは10代後半で、カナダのバンクーバーに渡り、料理人として働きはじめた。とにかく第一の目的は海外に出ることだった。
しばらくバンクーバーで働いた後、ビザの関係からフロリダの知人に会いにいくことになった。
「どうせフロリダに行くのなら」ということで、そこからグレイハウンドバスを利用して、カナダ、アメリカ、メキシコを旅した。
「ひとりで旅していると、とにかく食事の時がさびしいんです。ですから、いつのまにかカウンターで食事をするのが習慣になっていました。カウンターですと、カウンターのなかにいるスタッフが必ず話しかけてくれるんですよ」
「そんななか、カウンターのなかで働くバーテンダーを見て、バーテンダーという職業に惹かれていきました。立ち居振る舞いですとか、独特の空気感、それからゲストへのさりげない心配りですとか……。フロリダに着くころには、もうバーテンダーになろうと決意していましたね」
結局フロリダでもビザの問題がこじれ、鈴木さんは一度日本に戻り、本格的にバーテンダーを目指すことにした。
@Suzuki Takayuki Bartender Schoool@2007
日本に戻った鈴木さんは、六本木の小さなバーでバーテンダーとしてのキャリアをスタートさせた。
しばらく経験を積んだあと、やはりまた海外を目指すことになる。
「一流のバーテンダーになるのと同時に、もう一度きちんと海外で勝負したいという思いが強かったので……」
向かったのは、ニューヨーク。
「日本で修行中に、カクテルの歴史をいろいろと勉強しましたが、やはりカクテルを学ぶならニューヨークしかなかったんです」
和食レストランで働き口を見つけると、鈴木さんは1934年に開校した世界最古のバーテンダー養成機関「NY International Bartender School」の門をたたいた。
「最初はただ見学に行ったんです。学費もなかったですし……。
すると案内してくれた人が、『日本人は初めてだから、学費は月々払ってくれればいいよ』と粋な計らいをしてくれたんです。
ですから見学に行って、そのまま入学手続きをしてしまいました(笑)」
@Suzuki Takayuki Bartender School@2007
ニューヨークのバースクールは、日本のそれとどう違ったのだろうか?
「技術や理論に関する部分はそれほど変わらないかもしれません。ただし、かなり実践的でした」
「まず講師は現役バリバリのバーテンダー。ですからニューヨークで今起こっていることをそのまま教えてくれるんです。トレンドはもちろんですが、偽札の見分け方や人種による対応の仕方、それからスタッフの面接の仕方なんてものまで教えてくれます。とにかく刺激的でした」
バースクールを卒業すると、自ら製作した履歴書とカクテルブックを持って、レストランやバー関係者に売り込みにまわった。
時に和食のバーカウンター、時にアイリッシュパブ、時にディスコのケータリング……。
鈴木さんはニューヨークのさまざまなシーンで経験を積んでいった。
「ニューヨークは都会的で冷たい印象があると思うんですが、少なくともバーシーンにおいては温かいんです。
おいしいカクテルはきちんと評価してくれますし、いいサービスをしたらそのぶんだけチップが返ってきます。なにかの記念日にはお客さまがチップをはずんでくれたりですとか……。
サービスするほうも、サービスされるほうも、それぞれに自立していて、ニューヨークならではの温かい『ノリ』があるんですよ。
あのノリは、最近の日本のバーシーンに欠けているものかもしれませんね」
後編へつづく。
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