PICK UPピックアップ
BAR白馬舘:富山で60年、
親子3世代が共存するカウンター。
<前編>
#Pick up
Uchida Teruhiro /内田輝廣、Uchida Shinya/内田信也、Uchida Yukinobu/内田行信 by「BAR白馬舘」
左から現店主で2代目の信也さん、初代店主の輝廣さん、3代目の行信さん。
フレアーバーテンダーを中心に、若いバーテンダーたちがバーシーンを盛り上げている富山市。
昨年、「HYDEOUT」のHIROKIさんらが中心となって開催したフレアバーテンディングの全国大会、「THE COCKTAIL! 2021」は既報の通りだが、今年は9月4日に「THE COCKTAIL! 2022」を実施。全国から有名バーテンダーが集まった。
その前後には市内のあちこちでゲストシフトが組まれ、バーテンダーもバー愛好家も、富山でのバーホッピングを大いに楽しんだよう。
そんなシーンの中心にいるもう1人のフレアバーテンダーが、「BAR白馬舘」の内田行信さん。
8月23日、シンガポールで行われたフレアの国際大会、「アジアパシフィック・バーテンダーオブザイヤー・カクテルコンペティション」に日本代表で出場し、見事準優勝に輝くなど、第一線で活躍するフレアバーテンダーとして知られた存在だ。
そんな内田さんを育てたのが、1962年に富山市で開業したオーセンティックバー、「BAR白馬舘」。
初代店主は現在89歳の内田輝廣さん。銀座に同名のバーがあり、輝廣さんはそこでバーテンダーとしてのキャリアをスタートした。
大阪に誕生したトリスバーの1号店を任され、後進のバーテンダーの指導のために全国のバーを訪れるなど、多方面で活躍。
故郷に戻り、暖簾分けという形で開いたのが現在の「BAR白馬舘」だ。
バックバーにカウンターという現代のバーの造りを初めて日本に紹介した。
BAR白馬舘の歴史は日本のバーの歴史
バーカウンターに椅子をあしらい、その前のバックバーにボトルを並べるという、現在のバーの基本的なスタイルを日本で初めて採用したのは、実は「BAR白馬舘」だそう。
銀座の「BAR白馬舘」が1937年にオープンした際、当時のマスターがフランスで出合ったスタイルを採用したものだ。
「フランスのニースに、薩摩治郎八(戦前の大富豪で、パリの社交界では「バロン薩摩」としてその名を轟かせた)も通ったという『シュヴァルブラン(=白馬)・アレイ』という宿屋兼居酒屋がありました。
この『シュヴァルブラン・アレイ』を訪ねた銀座の『BAR白馬舘』のオーナーは、それまでの日本になかった酒文化に感銘を受け、現在のバーに通じるスタイルを日本に持ち帰ったといいます」(輝廣さん)
本家とも言える銀座の店舗はもうないから、内田さんたちが唯一の継承者ということになる。
60年という時間を感じさせるヴィンテージの小物があちこちに。コレクターからまとめて購入したいというオファーを受けたことも。
現在の店主は内田信也さんで、輝廣さんの跡を継ぎ、27歳でカウンターに立った。
当時、すでに「富山に白馬舘あり」と言われるほどの存在だったから、父と同じカウンターに立つことはさぞや重圧だっただろう。
「重圧というより、カクテルも店作りも、お客さまがほかの店で『白馬舘』の名前を出しても恥ずかしくないものにしようといっぱいいっぱいでしたね。
若い頃は富山の魅力を広めようと、カクテルコンペにも積極的に出場しましたが、途中で舵を切り、営業に集中することに。
店の名前を汚さないということは、つまりお客さまを汚さないということですから」(信也さん)
サイドカーを作る信也さん。
クラフトカクテルを作るフレアバーテンダー
伝統あるオーセンティックバーで仕込まれたもの、父や祖父とは違うバーテンダーの道を歩き始めたのが、3代目となる行信さん。
オーセンティックバーでクラフトカクテルを作りながら、フレアのパフォーマンスも披露するというスタイルの融合は、まさに現代ならでは。
「こういう環境で育ったので、クラシックカクテルは作れて当たり前。
でも今後は、これまでとは違うことをやっていかなくてはいけないと思ってフレアを始めました。
横浜のフレアバー『Newjack』で修業しながら勉強したのが、ミクソロジー。
日本でミクソロジーが流行り始めたころで、当時は『あんなのカクテルじゃない』なんてイロモノ扱いされていましたが、これまでとは全く異なるアプローチが新鮮に感じました」
2年前に横浜から富山に戻ってきたが、そうしたミクソロジーの下地が、いまのカクテルメイキングのベースになっている。
「富山ではまだまだミクソロジーカクテル、クラフトカクテルはそれほどメジャーではないこともあり、クラシックだけではないカクテル文化を広めたいと思っています。
SNSの時代ということもあり、インスタ映えするクラフトカクテルが若い人たちを中心に徐々に広まってきているという手応えを感じています。
と同時に、ここ数年、これまで触れ合うことのなかったミクソロジストとフレアバーテンダーの交流が始まり、互いにいい影響を及ぼしあっている気がします。
かつては『フレアバーテンダーが作るカクテルはおいしくない』。なんて言われていましたが、近年、そうした評価が覆ってきているのは、フレアとクラフトカクテルの融合が進んでいるから。
山本圭介さんや有吉徹さんらフレアバーテンダーが、そうした姿勢を積極的に打ち出し続けているからだと思います」
8月23、24日にシンガポールで開催された「アジアパシフィック・バーテンダーオブザイヤー・カクテルコンペティション」。見事、準優勝!
そうしたバー文化の移り変わりを、信也さんは「時代は流れていくものだから」と頼もしく見守っている。
「私がカウンターに立ち始めたころ、常連客の9割は私より年上で、父のお客さまでした。
バーテンダーである私も、私より年下の1割の常連客も、年上のお客さまに育ててもらい、ともに成長しました。
20年経ってその世代がバーの中心になり、父のお客さまには『ずいぶん客層が変わったな』と言われますが、私はそれでいいと思っています。
お客さまの引き継ぎがスムーズに行われることは、バーにとって大事なことですよ。店というものはお客さまが育てるものなのですから」(信也さん)
後編ではそれぞれのとびきりのカクテルをご紹介します!
後編に続く。
SHOP INFORMATION
BAR白馬舘 | |
---|---|
富山県富山市桜町1-3-9 AIビル2階 TEL:076-432-0208 URL:https://www.facebook.com/hakubakan/ |