
PICK UPピックアップ
BAR白馬舘:祖父、父、息子の 3世代が選ぶ
それぞれの時代のカクテル。
<後編>
#Pick up
Uchida Teruhiro /内田輝廣、Uchida Shinya/内田信也、Uchida Yukinobu/内田行信 from「BAR白馬舘」
文:Ryoko Kuraishi、撮影:Daiki Kasahara
それぞれの時代のカクテルを考える。
内田輝廣さんが現役だった時代のカクテルは、一言でいうと「超ドライ」。なぜなら、材料がいまほど豊富に揃わなかったから。
「戦後なんてまだまだ食糧は配給制だったから、レモンもライムも手に入らない。水兵と取引して手に入れたフルーツを使ってカクテルを作っておりました。
昭和30年代にカクテルコンクールが始まりましたが、優勝したカクテルのレシピを見ても材料は3つ、単率(1:1:1)というものが多かったですね。
『青い珊瑚礁』なんてジンとミントリキュールですから」(輝廣さん)
一方、信也さんの時代はといえば……?
「カティサークやホワイトホースといったウイスキーが数多く登場していました。いまは出ませんけれどね。
リキュールも手に入るようになり、カクテルの味わいに変化をつけられるようになりました。
息子の世代のレシピを見ていると、まるでお菓子のレシピのようだと思うこともありますが、酒も流行があり、社会とともに好まれる味わいも変わりますから。
そこはしなやかでありたいと思っています」(信也さん)
御年89歳。現在は残念ながらカウンターに立つことはないそうだが、シェイカーさばきは健在。シンプルこそ難しい、そんなことを実感させる見事なジンフィズを作っていただいた。
行信さんがキーワードとして掲げるのは、「ローアルコール&モクテル」と「SDGs」。
「数年前にクラシックカクテルのリバイバルがありましたよね?
うちは伝統的にオーセンティックなクラシックカクテルを中心にやっていたので、あのムーブメントをきっかけにクラシックを見直し、いまの時代にフィットするよう、ローアルコール&モダンにツイストしました。
SDGsに関しては、フルーツの皮を使ってコーディアルやドライフルーツを作るなど、無駄をなくすという取り組みは長く続けています。これは今後も末長く続けたいと思っています。
そのほか、富山にカクテルを根付かせようと、『The World’s Bestselling Classics』のトップ50をフィーチャーするという取り組みを始めています。
これがお客さまと世界のカクテルの出合いとなれば、今までになかったバー体験を提供できるのではないかと思っています」
信也さんのサイドカーはキレの良さが際立つ一杯。
3世代の「一押し」カクテル
それでは早速、作っていただきましょう。輝廣さんが選んだのは、定番の「ジンフィズ」。
遠方から出向いた取材チームを労う意図で、これを選んでくださったよう。
「ジンフィズのポイントはバランス。気温や湿度、お客さまのコンディションに合わせてバランスを調整することで、その方にとって最高の一杯になりうるクラシックカクテルです」(輝廣さん)
その言葉通り、酸味の効いたすっきりした味わいは蒸し暑い日中(取材当日はそんな気候でした)にぴったり。ごくごく飲み干したくなる、最高のジンフィズだった。
信也さんが選んだのは、輝廣さんの意向を受けての、定番のサイドカー。
「酸味、甘味、アルコール感という三位一体を具現化したようなサイドカーは、カクテルの基本中の基本」(輝廣さん)
「たくさんのカクテルブックにレシピが載っていますが、その通りに作っても完成度の高いものに仕上がらないのがサイドカー。
昔のカクテルブックには、レシピの意図が必ず書いてありました。どういうイメージ、どういうシーンで飲むカクテルなのか。
最近のカクテルブックには書いてないですが、それを理解して作るカクテルとそうでないものでは、味わいも香りも別物」(信也さん)
富山の素材を盛り込んだ、行信さんの「薬都」。
サイドカーにはドイツ軍に負けて戦場を去るフランス軍将校が飲んでいたというストーリーがある。
「戦場で体を温めるためのアルコール感のなかに、戦いに負けた悔しさ(酸味)と次は勝つぞという希望(甘味)を乗せることで、そのストーリーを色鮮やかに思い描くことができる。
カクテルメイキングは、そのカクテルの裏側にある背景、意図が大切です」(信也さん)
続いて、行信さんが作ってくれたのは、とあるコンペでベストカクテル賞を受賞した、富山産素材満載のカクテル「薬都」。
“越中富山の薬売り”で知られる富山では、富山のくすりの伝統を活かした「富山やくぜん」という認定がある。
ベースの三郎丸蒸溜所のウイスキーに、「富山やくぜん」の認定基準を満たした富山産ハーブ(ショウガ、コショウ、クコの実、ハッカク、シナモン)と梅、ハチミツの自家製コーディアル、ペルノー、卵白、レモンを使ったウイスキーサワーのようなカクテルだ。
若い世代にこそクラフトカクテルに親しんでほしいと、店の入り口にメニューを掲げる。
フレアもクラフトもクラシックも。
これからのバーについて思うことをそれぞれに伺った。
「バーとは時代の流れとともに変わるもの。けれど、守らなければいけないものもある。
うちの場合、それはオーセンティックバーということでしょうか。
しなやかでありながら、守るべきものは守っていく、そんな店でいてくれたらいいなと思っています」(輝廣さん)
「いろいろなスタイルのバーが出てきますが、最終的に残るのは、技や知識を常に磨いているバーではないでしょうか。
つまり、お客さまが求めるものに応える店、ということです。
大切なのは長く『バー』であり続けること。
お客さまは浮気しますから、常連の方だってある日突然、足が遠のく可能性がある。けれど長く続けていたら、10年後にまた戻ってきてくれるかもしれません。
10年後にふと、『あの店にいってみようか』と思い出してもらったとき、ドリンクのプロフェッショナルとして変わらないスタイルでカクテルを提供している、そんな店でありたいと思います」(信也さん)
「コンペに継続して出場しつつ、今後はさらに富山のバー文化を発展させる活動に注力したい」というのは行信さん。
「来年には富山発のクラフトジンも誕生する予定です。
『富山のくすり』の伝統を現代にアレンジした、ハーブ園とクラフトジンの体験型コンテンツも実施したいし、『HYDEOUT』と共催で『カクテルサミット』も開催したい。
富山はまだまだ面白くなりますよ!ご期待ください」(行信さん)
SHOP INFORMATION
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