PICK UPピックアップ
バーテンダーから造り手へ転身!
岩手から生まれた、ローカル色豊かなリキュール。
<前編>
#Pick up
Oikawa Kazuma/老川和磨 by「金ケ崎薬草酒造」
冬は降雪量が多く、夏はしっかり暑いのが金ケ崎の気候。年間を通して寒暖差があること、きれいな伏流水と粘土質の土壌に恵まれていることで、香りの強いハーブが育つ。「とくにニガヨモギ、キイチゴなどベリー類はこの土地に適しているようです」(老川さん)
岩手県南西部に位置する金ケ崎町。2021年末、この金ケ崎町に誕生した、町内初(日本酒を除く)にして唯一の酒造場が「金ケ崎薬草酒造」だ。
立ち上げたのは金ケ崎出身の元バーテンダー、老川和磨さん。バーテンダー時代の知識と経験を生かし、2021年11月末にリキュールの製造免許を取得した。
「東京では自家製ハーブ酒のバーを営んでいました。
もともと自分でものづくりを行いたい、酒造場をもちたいという目標をもっていましたが、コロナをきっかけに、地元で『金ケ崎薬草酒造』を開業しました」
免許取得の翌月から製造をスタートし、ファーストリリースは翌春。
第一弾商品は、和のハーブを使ったリキュール「和花」だ。
「和花」は日本の春夏秋冬をテーマにした低アルコールリキュールで、それぞれの季節で旬を迎えるハーブや果実をブレンドしている。
バーテンダー時代はカクテルコンペにも出場していた。2019年の「DIAGEO WORLD CLASS」ではファイナリストとしてジャパンファイナルに挑んだ。
味わいの決め手は「香りのレイヤー」
現在のラインナップは「和花」に加えて、「和花」のアルコール度数を高めた「和花 High Proof」、和紅茶や桑茶、桑ほうじ茶など、日本らしい伝統茶の香りやフレーバーを楽しめる「茶酒」シリーズ、サルナシ×菊、ショウガ×大葉、カシス×アロニア×ミントなど、岩手県産素材にこだわった「いわてクラフトリキュール」シリーズ、老川さんの個人的な好みを追求した、オリジナリティあふれる「KZ(カズ)」シリーズと、さまざま。
すべてのシリーズで一貫しているのは、岩手、もしくは日本の植物やハーブをキーボタニカルとしていること。各レシピはそのボタニカルを際立たせる構成になっている。
使うのは自社栽培のハーブや果実、地元産の規格外農産物など。
原料調達から製造までを自分たちで行うことで、食品ロスという社会課題を解決するものづくりを行うことができる。
酒造場は、コメ農家だった祖父が利用していた納屋を再利用。 残念ながら天井高が足りず、蒸留機を設置できなかったので、まずはハーブリキュールを仕込めるタンクだけを入れることに。
さらに、ベーススピリッツにも手を加えているのが特徴で、ボタニカルごとに漬け込む期間やベースのアルコール度数も変えている。
例えば、ベースサトウキビベースの醸造アルコールに果実やハーブなどをインフューズド。
ベーススピリッツに果実やハーブ由来の香りや少しの甘みをつけてからボタニカルを浸漬することで、仕上がりに奥行きが生まれる。
「ジンのように複数のボタニカルを一度に漬け込むとそれぞれのボタニカルの特徴が混じり合い、複雑な香り・余韻になります。ジンの多くはそういう製法ですね。
うちはそれぞれのボタニカルのエッセンスを感じてもらえるよう、3回、4回と浸漬を重ねています。
個別に浸漬することで香りのレイヤーができ、各ボタニカルの個性を感じてもらいやすくなります。
現在は試験的にブランデーや粕取り焼酎ベースを試しています。ベースを変えることで表現の幅がさらに広がりそうです」
「山のアマーロ」製造のために集めたボタニカル。
日本の山から素材を集めた「山のアマーロ」。
そんな老川さんが現在取り組んでいるのは、“日本のアマーロ”。
シナモン、アニス、ナツメグといったスパイスや植物の根が決め手のアマーロは、独特の苦味と複雑な香りが特徴。
日本ではこれらのスパイスが栽培されておらず、「決め手になるボタニカルは日本のものを使いたい」というこだわりゆえ、国産アマーロを作れていなかった。
ゲンチアナやキニーネがもたらす衝撃を、日本の山にあるもので再現できないか。どうにか日本のボタニカルだけでアマーロを作れないか。
というわけで、ここ1年は近隣の山に分け入っては山の植物採集に没頭していたとか。
1年越しで完成した「Yama no Amaro KZ」¥3,520。フキノトウ、シシウド、ハナウド、タムシバ、キハダ、山椒、グミの実などを浸漬した。ウドの青っぽい香り、山椒やグミの実由来の酸味とスパイシーさ、カスタードクリームを思わせるヤマボウシの甘い口当たり……複雑に香りたつメイド・イン・ジャパンのアマーロだ。
アニスの香りを代替するハーブなんてあるのだろうか…… ?
「それが、地元の山にはあったんですよ(笑)。
似たようなニュアンスを醸す植物を探し出し、さらにその要素を引き立てるフルーツやハーブを加えてキーボタニカルを補完します。
バーテンダー時代の知識や経験と、現在、地域の特産品開発を担うOEMで地場産の変わった食材を扱う機会が増えたことも、この工程に役立っています」
「山のアマーロ」の完成後は、樽熟成をかけるリキュールもリリース予定。
マルスウイスキー「駒ヶ岳」の熟成に用いたバーボン樽やメルローのワイン樽を使い、アマーロやノンアルコールワインの開発を考えているとか。
後編ではバーテンダーから造り手への転身の理由、老川さんがバンクーバーで開眼したローカル&クラフトなものづくりについてご紹介します。
後編に続く。
SHOP INFORMATION
金ケ崎薬草酒造 | |
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岩手県胆沢郡金ケ崎町西根下桑ノ木田30番地 TEL:080-4510-4636 URL:https://www.kspyakusou.com |