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岩手で考える、クラフトリキュールの未来。
<後編>"
PICK UPピックアップ
洋酒文化の入り口になる?!
岩手で考える、クラフトリキュールの未来。
<後編>
#Pick up
Oikawa Kazuma/老川和磨 from「金ケ崎薬草酒造」
文:Ryoko Kuraishi
畑の開墾・栽培から収穫、仕込み、製造、営業までを担う老川さん。
「金ケ崎薬草酒造」を立ち上げた老川和磨さんは金ケ崎の出身。18歳で上京し、当初は音楽系の仕事に就いていた。
洋酒に興味をもったきっかけは、音楽つながりで訪れたジャズバーで口にしたベルモット。
初めて味わう苦味、香り、余韻に衝撃を受け、さまざまなバーに足を運ぶようになった。
ベルモットを中心に薬草系のリキュールを味わううち、洋酒の知識や経験をさらに深めたいと、バーテンダーへの転身を決める。
とはいえ、キャリアをスタートしたのがショットバーだったので、リキュールを使う機会はあまりなかったとか。
こちらはセージのつぼみ。酒造場の自家ガーデンでは現在、種ほどのハーブを育てている。「薬草やハーブが有名になったら町の産業になるかもしれません。いずれは金ケ崎=薬草やハーブの町と認識してもらえるようにがんばります!」
日本からバンクーバーへ。
そんな老川さんが本格的なカクテルメイキングに触れたのは、ワーキングホリデーを利用して暮らしたバンクーバー。
「10年前のことですが、現地の日本食レストランのウェイティングバーの職を得て、そこでクラフトカクテルやミクソロジーの洗礼を受けました。
日本ではギムレットやマティーニのようなクラシックカクテルを中心に作っていたので、自家製の素材を駆使してオリジナリティあふれるカクテルを作ることがものすごく新鮮で。バーテンダーの仕事のおもしろさを感じられました」
バンクーバーではリキュールが高価だったこともあり、勤務先のバーでは使える酒が限られていた。
そこで食材を研究し、副材料を工夫してユニークなカクテルを作るようになる。とくに、シソや柚子といった食材を使った日本らしいカクテルが好評を博したとか。
バンクーバーからニューヨークを経て、東京に戻ってきたのが2017年のこと。
日本を離れている数年のうちに日本のバーシーンでもミクソロジーの文化が根付いており、南雲さんや鹿山さんといったユニークなバーテンダーがそのシーンをリードしている……。
そんなバー事情を、ニューヨーク滞在中に「Angel’s Share」(当時)の渡邉琢磨さんに教えてもらい、「もう一度、日本のバーテンディングをちゃんと学び直そう」という気持ちを抱いて帰国したそう。
「アマーロやアペリティーボを根付かせたいと思っていたので、東京で自家製ハーブ酒のバーをスタート。
とはいえ、いつか自分でものづくりを行うという気持ちはずっと抱いていました」
バーテンダー時代から、さまざまなハーブやフルーツをリキュールに漬け込み、香りや味わいの引き出し方を試していた。左から、ソルダム、アボカド、スターフルーツ、メロン、ドラゴンフルーツ。
バンクーバーで“ローカル酒”文化に感動した。
バーテンダーとしてバンクーバーに滞在していた当時、現地にはクラフトのムーブメントが到来しており、地産地消型の小規模な蒸溜所、醸造所がいくつも稼働を始めていた。
そんな造り手のもとを訪れては、ローカル色豊かな酒造りに圧倒されたとか。
「どの作り手も地元の素材を使って風土を生かした地域性豊かな酒造りを行っており、それが地元の人たちに愛され、きちんと根付いていました。
とくにハーブや果実など素材の香りを引き出すハーブリキュールは、地域性がダイレクトに現れます。
その土地ごとの多彩な味わいを表現できるハーブリキュールの文化に触れ、自分もいつかは故郷でローカルな酒造りを……と思うようになったのが、酒造場立ち上げのスタートでした」
地元のイベントに地道に出店し、幅広い層に向けてリキュールの飲み方、味わい方を提案している。
「地元の資源を活用し、アペリティーボやアマーロなどのリキュール文化を提案する」というコンセプトは固まっていたものの、コメどころということもあり岩手は日本酒文化圏。
リキュールが岩手に根付くのか……と、周囲にはずいぶん心配されたとか。
「立ち上げ当初はリキュールというだけで敬遠されました。リキュールをどうやって飲めばいいのかわからないというのです。
一般の消費者や酒離れが進んでいるという若い世代に向け、新しいドリンクとしてリキュールを提案したかったので、少量をストレートやロックスタイルで楽しめる低アルコールの『和花』からリリースすることにしました」
地元のイベントに出店して、手売りで地道にアピール。生ビール以外の選択肢もあるんだよ、と提案して、いまではギフトや金ケ崎のお土産として買い求めてもらえるほど、地元に根付いたドリンクに。
「こうした軽めのリキュールで少しずつ味わいを知ってもらい、いずれ洋酒の世界に入ってもらい、金ケ崎に薬草酒やハーブ酒の文化を作る……と考えると、バーの接客と同じかもしれません」
“テロワール”を表現している「金ケ崎薬草酒造」のリキュールは現在15ラインナップ。さらに月に1〜2本のOEMを請け負っている。
クラフトリキュールは洋酒文化の入り口になる。
近年、国内でも「金ケ崎薬草酒造」のようなクラフトリキュールの造り手が現れている。こうした背景を踏まえ、これからのリキュールの可能性をどう考えているのだろうか。
「リキュールは制約がない、味わいのレンジが広いことから、ジンよりももっと消費者に寄り添える酒だと思っています。
造り手としては、消費者にどう飲んでもらえるかをアピールしやすい点も魅力的です。
国内でプレーヤーが増えていけばその市場も今後、大きくなる可能性がありますよね。
リキュールや食前酒の文化を知ってもらいたい、そのプレーヤーの一つとして市場で存在感をアピールできればと考えています」
そのアピールも、特に金ケ崎のような地方では若い世代に向けての発信が大切、とも。
「リキュールは洋酒文化の入り口になりやすいお酒です。ちょっと前はカシスリキュールやカルーアなどが入口の役割を担っていましたが、いまなら日本のクラフトリキュールがそれを担えます。
若い世代の酒離れといわれるなか、“日本のクラフト”というキャッチワードをきっかけにお酒に親しんでもらえるかもしれない。
だからリキュールには大きな可能性を感じています。
次世代のために新しいスタイルのドリンクを提案するのは夢があることですよね」
「日本」や「バー」という枠にとらわれず、リキュールが日常にある新しいライフスタイルを提案する「金ケ崎薬草酒造」。
アペリティーボの本場・イタリアへ輸出する計画があるほか、台湾でもセールスプロモーションを行う予定という今年は、飛躍の一年となりそうだ。
SHOP INFORMATION
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金ケ崎薬草酒造 | |
岩手県胆沢郡金ケ崎町西根下桑ノ木田30番地 TEL:080-4510-4636 URL:https://www.kspyakusou.com |