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正真正銘、純国産。
造り酒屋がミードを醸す!<前編>
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佐藤利也さん by「峰の雪酒造場」
もともと醸造業が盛んな会津若松周辺。喜多方の駅にもずらり、樽酒が並ぶ。下段左の「蔵」は、峰の雪酒造場の銘酒だ。
「世界最古の酒はなんだ?」
そう聞かれて「ミード!」と答えたあなたは相当の事情通。
日本ではあまり馴染みがないけれど、ビールやワインが登場する以前からヨーロッパなど世界各地で愛飲されていた醸造酒がミード、つまりハチミツ酒。
なるほど、歴史は古い。
古代ローマ帝国においてはかのジュリアス・シーザーやクレオパトラもミードのファンだったというし、古代インドで書かれた『リグ・ヴェータ』に登場する「神の酒」はハチミツ酒ではないかとも言われている。
ケルト人はハチミツ酒を不死の霊薬として崇めていたし、北欧神話においてハチミツ酒は神々たちの叡智の酒とみなされた。
そうそう、英語の「Medicine=薬」はミードが語源である。
いずれにしろ、ミードは世界で最も古い酒の一つとされている。
現在も世界各地で醸造されており、ヨーロッパや北米、エジプト、オーストラリアなどに500社ほどのミーダリー(ミード専門の醸造所)が稼働しているそうだ。
欧米各国では自家醸造を楽しむ愛好家も少なくない。
さて、翻って日本でもミードが作られていることをご存知だろうか。
今月は会津生まれの「純国産ミード」が誕生するまでの舞台裏を公開しよう。
峰の雪酒造場の、明治時代に建てられた蔵。日本酒の仕込みが終わると、ミード造りが始まる。
福島県喜多方市。
日本百名山に数えられる飯豊山の伏流水に恵まれた喜多方では、古くから醸造業が盛んに行われてきた。
「蔵の街」として知られる喜多方には、酒蔵に味噌蔵など実に2000以上もの蔵が軒を連ねる。
そうした中の一つが造り酒屋の「峰の雪酒造場」だ。
「四方の花 慶雲燗たり 峰の雪」という俳句から名付けられたという。
社長の佐藤利也さんはこの蔵の4代目。
30年近くの年月を、日本酒造り一筋に捧げてきた。
日本酒の造り手である佐藤さんがはじめてミードを知ったのは、2007年のこと。
同郷の養蜂業者、ハニー松本養蜂舎の松本吉弘社長から「自家採蜜したハチミツで、国産ミードを造ることはできないだろうか」、そんな相談を受けたことがきっかけだった。
松本さんは若い頃、LAで料理人をしていた経験があり、そのころからミードを飲んでいたそう。
「そんなこと言われても、僕はミードなんて見たことも聞いたこともないし、『ハチミツ酒』って言われても、えっハチミツで発酵するの?なんて疑問に思ったくらいでね」と佐藤さん。
一度は丁重にお断りしたものの、松本さんの依頼が他の酒蔵にも軒並み断られたと聞き、佐藤社長のチャレンジ精神に火がついた。
「他のどこも『できない』と言うんだったら、ひとつやってみるか、って。
そもそもミードは、リキュールじゃなくて醸造酒。
ということは日本酒の延長だ。
おまけに『国産の』と言われたら、造り酒屋のプライドとして『やってみたい』という気持ちになりましてね」
親子二代、完全自家採蜜にこだわった天然ハチミツを生産するハニー松本養蜂舎。
まずは「ミードとは?」を解明することから始まった、峰の雪酒造場のミード造り。
言うまでもなくミードの原料はハチミツだ。
ところが、日本国内に出回っているハチミツの95%が輸入もの。
国産ハチミツはわずか5%にすぎない。
「会津はもともと、希少な国産ハチミツの産地の一つ。
松本さんは自家採蜜にこだわる養蜂家で、僕は造り酒屋だから『地もの』にプライドがある。
国産ミードと謳うからには国産ハチミツで、しかも地元・会津のハチミツしかない!ってコンセプトは当初から決まっていたんです」
会津で採れるトチ、アカシア、柿、萩の4種のハチミツのうち、まろやかで優しい味わいのトチの木の花のミツがミードの原料に選ばれた。
「トチはね、日本固有の植物で海外にはないんですよ。
国産の、しかも日本でしか採れないハチミツっていうのがジャパニーズ・ミードのコンセプトにも合うと思って」
標高600〜800メートルの山間に自生するトチ。
しかも樹齢30年以上の木でなければ花が咲かないため、採蜜さえできない。
そもそもの採れる量に限りがあるうえに、さらに濃度が高い朝採りの最高級品にこだわったとか。
原料の次は発酵方法だ。
発酵段階における研究は福島県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターの強力を仰ぎ、試験醸造を行った。
本来、ハチミツは殺菌作用が強いゆえ、発酵しづらい食品だ。
そのため水で希釈して糖度を下げ、そのうえで酵母を添加して発酵させる。
高品質のハチミツを、飯豊山系の伏流水で希釈する。
「海外のミーダリーの多くはワイン酵母を使っているそうです。
ところがハチミツは穀類と違ってアミノ酸を含まないため、ワイン酵母だと思ったほど発酵しないんですね。
国や地域によって異なりますが、発酵を促すために穀類や果汁を加えるのが一般的なんだそうです。
でも僕たちのミードはハチミツのみで醸したい。
で、考えたのが日本酒酵母を使うことでした」
日本酒の醸造に用いられる酵母の100倍量を一度に加え(単発酵)、1カ月かけてゆっくり発酵させる。
さらに気温など発酵条件を整えることで、ハチミツのみで発酵させることに成功した。
ところが、本醸造に入ったところで、発酵したミードは混濁したままで澱が沈殿しない。
ろ紙を使ってみても一向に濾過されない。
味は悪くないものの、どろどろとしたミードはとても商品化できる代物ではない。
「研究施設では遠心分離機を使って分離させていましたが、造り酒屋にはそんなものはないし……」
ミードを仕込むタンクがこちら。このタンク一つで年間の生産量およそ36000本分をまかなう。
ここで登場するのが、造り酒屋ならではのアイデアだ。
30年の経験を生かし、佐藤さんは清酒醸造によく用いられる「オリ下ゲ」と呼ばれる技術を試してみた。
すると、見事、濁りが沈殿!
上澄み液をしぼって濾過させたところ、クリアで明るい黄金色の液体が現れた。
会津産の希少なハチミツ、飯豊山系の清冽な伏流水、そして土地に伝わる伝統の醸造技術。
三者が一体となって初めて、純国産ミードが完成したのである。
苦労して完成させた、夢のジャパニーズ・ミード。果たしてその味は……?
後編に続く。
SHOP INFORMATION
峰の雪酒造場 | |
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966-0802 福島県喜多方市字桜ヶ丘1-17 TEL:0241-22-0431 URL:http://www.minenoyuki.com/ |