PICK UPピックアップ
正真正銘、純国産。
造り酒屋がミードを醸す!<後編>
#Pick up
佐藤利也さん by「峰の雪酒造場」
8月3日を「ミード・デイ」として提案している。試飲イベントであいさつする佐藤さん。
「飲んでみて、そりゃあもう、びっくりしました」と話すのは、峰の雪酒造場の4代目社長、佐藤利也さん。
自らが開発に携わった純国産ミードの試作品を初めて味わったときの感想である。
「こんなお酒、飲んだことない!まずそう思いました。
今までに飲んだどのミードとも全く別物の、爽やかで優しい味わいだったんです。
本醸造の初回で、いきなりずばぬけて完成度の高いものができてしまったことにもびっくりしましたね」
当時、日本国内でミードの開発に成功したのは峰の雪酒造場で3社目(現在は4社)。
国産ハチミツを使った真正のジャパニーズ・ミードは唯一無二である。
養蜂家と造り酒屋、会津が誇る二大名産の作り手による最強タッグが生み出した、新しい醸造酒。
佐藤さんは故郷の自然に敬意を表して「美禄の森」と名付けた。
ブラダイルを意識した華やかなパッケージの「花織」180ml¥1,470。
2009年8月3日(ハチミツの日)、東京・青山にて「美禄の森」初お披露目。
何よりも佐藤社長の励みになったのは、はじめてミードを飲んだ、という来場者の反応だった。
「こんなにおいしいお酒は飲んだことがない」とはしゃぐ若い女性、「普段、お酒は飲まないんだけど…..」と言いながら、まるまる一瓶飲んでしまった妙齢の女性など。
ここで「美禄の森」の熱烈なファンになり、以降、ボランティアとしてイベントを手伝うようになってくれた人もいる。
「まだまだ、ミードは日本ではマイナー。
だからこそ、この魅力をいかに伝えていくか、それを考えるのがとにかく楽しい。
どうやったら伝わるだろうか、こういう場でこういう風に見せたらどうだろうか等、日本酒を造っているときは考えたこともなかったことで、毎日頭を悩ましていますよ」
「美禄の森」は新しい出会いや発見をもたらしてくれ、それは佐藤社長のライフスタイルさえ大きく変えてしまったという。
「『美禄の森』を持って遠く九州まで講演に出かけたり、銀座や青山など素敵な会場でイベントを開催させてもらったり。
今まで縁のなかった世界の方々—たとえば銀座のママたちの集いとかーと知り合えたり。
この年になって新しい刺激をたくさんもらっています」
「花織」のボトルデザインにあわせ、ブライダル用に特別に作ってもらったデキャンタも披露した。
「美禄の森」が好評を博したのに続き、佐藤さんたちは次なる一本を発表した。
それは、美しいボトルデザインが目を引くミード、「花織」。
峰の雪酒造場と公立大学法人宮城大学とのコラボレーションで生まれたもので、中身のミードはそのまま、よりデザイン性の高いパッケージで「特別なオケージョンのための一本」としてリリースされた。
「そもそもミードはハネムーンの語源になったお酒でもあるし、ハチミツやミードは結婚の儀式と切っても切れない関係にある。
6月の花嫁が特別に『ジューン・ブライド』と呼ばれて祝福されるのも、6月はミードの発酵に適した気温になるからだそうですよ。
日本でもミードがブライダルの場で愛されるお酒になればいいと思って、こんな提案を考えてみました」
密壷をイメージしたというパッケージを手がけたのは宮城大学教授で、かつてソニーとサントリーのインハウスデザイン部署でプロダクト&グラフィックデザインを手がけていた日原広一さん。
花を思わせる透明のキャップはグラスを兼ねていて、華やかさと飲みやすさに考慮したシェイブになっている。
このミード、2010年に開催された「フーデックス・ジャパン」の企画「JETROフーデックス・アワード」にて「米国人ジャーナリストが選ぶ日本食品10選」にも選出された。
源泉された材料と丁寧な作業が生み出した品質と味わいが高く評価されたのだ。
目利きのジャーナリストたちいわく「カクテルのアイデアになりそう」「ボトルキャップのデザインが秀逸」「目新しく、かつ高品質!」
こちらが元祖・会津ミードの「美禄の森」520ml¥3,150。
こうして矢継ぎ早に二つのミードを世に送り出した佐藤さん。
もちろん、次なる展開も頭にある。
「まずはスパークリング・ミードを商品化したいですね。
そして麹を添加したミードも。
麹を加えると日本酒っぽい風味になりますが、うまくバランスをとればコクのあるミードができると思います。
あとはワンショット・タイプ。
うちのミードは原材料が高価なのでどうしても値段がかさんでしまう。
多くの人に試してもらうために、手頃な値段のワンショットのボトルを造ってみようかという話もあります。
それから、そうヴィンテージですね。
日本酒の場合、熟成が進んでおいしくなるのは吟醸や大吟醸など、雑味の原因となるタンパク質や脂肪が少ないものに限ります。
ところがミードはそのアミノ酸を含まない。
酸化しにくいので日持ちするうえ、瓶内で熟成させるとコクがでて味に深みが増すんですね。
手元にあるものをヴィンテージとして販売することも考えていますし、今度醸すものを樽内貯蔵しようというアイデアも」
ヌーヴォーはクリアな飲み口の爽やかな甘さが特徴だが、2年、3年と年を経るにつれ、甘みが抑えられ上品なコクとハチミツの香ばしさが感じられるようになる。
「飲み方はキンキンに冷やすのがおすすめです。
データを取ったところ、適温は約2℃。
甘み、酸味、香りやうま味のバランスがいい。
またシャーベット状にしても、甘さを抑えた大人のデザートとしても楽しんでもらえますよ。
特別なうつわでサーブしてほしいですね」
これからもさまざまなハチミツを使ってミード造りに挑戦していきたい、と佐藤さん。
こうしたアイデアやプレゼンテーションが実を結び、当初インターネットショッピングが中心だった販路は広がり、現在ではホテルメトロポリタン丸の内やホテルメトロポリタンエドモント内のバー、コンラッド東京で日本料理・統括料理長を務めた斎藤章雄シェフの和食店「日本料理 しち十二候」、銀座の「京料理・花郷」、京都の老舗ハチミツ専門店「ミール・ミィ」など、各地の名店で味わえるようになった。
また、ロシアの菩提樹のハチミツ、バングラディッシュの、ブルガリアのバラの、青森産のリンゴのハチミツの……などなど、試験醸造の依頼が引きもきらないんだとか。
各地から養蜂家からの見学依頼も相次ぎ、製造元としても充実の日々だ。
「そんなことをしているうちに自分でも採蜜したくなりましてね、いま、仲間20人と一緒に庭でミツバチを飼っているんです。
いずれ、百花ミツでミードを造れたらいいなと思ってね。
もちろん、ものすごく希少なものになるから商品化というより地元をアピールするアイテムとして、『ここに来ないと飲めない!』というウリになればいいですねえ」
清酒に誇りを持っているとして、ミード造りにためらいがあったとは想像できない傾倒ぶり。
「やっぱりね、『これに出合えてよかった!』と言ってもらえるのは、造り手としては至上の喜びなんです。
もっといいものをと思うし、もっと広めたいという意欲にもつながる。
日本に広まったら、いずれは海外へ。夢が膨らみますね」
経験を経るごとに強まる、自身の技術や知識、経験へのプライド。
そうしたこだわりを捨て、作り手としてベテランの域に達してからも新しいことへのチャレンジをあきらめなかったからこそ、モノを作る喜びがより豊かに、リアルに感じられるのだろう。
造り酒屋としての誇りが育んだ新生代の醸造酒。
郷土への愛情がいっぱいにつまったミードで、佐藤さんは見果てぬ夢を追い続ける。
SHOP INFORMATION
峰の雪酒造場 | |
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