世界的な植物学者を魅了した
高知のボタニカルをジンに仕立てて。
<後編>

PICK UPピックアップ

世界的な植物学者を魅了した
高知のボタニカルをジンに仕立てて。
<後編>

#Pick up

Shiota Takashi/塩田貴志 by「ダンディズム土佐BARクラップス」

日本の植物分類学のパイオニア、牧野富太郎博士にオマージュを捧げる「マキノジン」は、バーテンダーの塩田貴志さんと司牡丹酒造がタッグを組んで生まれたもの。この夏、土佐文旦を使った第2弾のリリースを予定している。

文:Ryoko Kuraishi

佐川町にある司牡丹酒造。

ベテランバーテンダーを奮い立たせた、旧式蒸留機

ここは高知県の中西部に位置する佐川町。

司牡丹酒造が拠点を置く“酒蔵の街”であり、牧野富太郎博士の生まれ故郷でもある。

「マキノジン」を蒸留する「マキノ蒸溜所」は、司牡丹酒造の蔵が立ち並ぶ一角、「酒蔵の道」と呼ばれるエリアにある。

塩田さんに案内していただいた「マキノ蒸溜所」の主役は、年代物のステンレス製蒸留機。

現代の蒸溜所でおなじみの銅製のハイブリッド蒸留機とはかなり趣が異なる。

なんでも、司牡丹酒造の焼酎庫で10年以上も使われずに眠っていたものを、「マキノジン」のために杜氏が整備してくれたという。

「銅製の蒸留機がよしとされるのは、銅イオンが雑味を取り除くから。

ならば蒸留機に入れる段階でボタニカルの不純物を取り除けばいいのだと、仕込みの精度を追求することにしました」

司牡丹酒造の焼酎庫に眠っていたステンレス製蒸留機が置かれている「マキノ蒸溜所」。ここはなんと、牧野博士の生家(岸屋という造り酒屋)の酒蔵跡地!司牡丹酒造でもこの蔵を「牧野蔵」と読んでいたそう。

グアバの葉は農家から枝付きの生葉をいただき、葉だけにカットして洗い、出汁袋にいれて。

ブシュカンは一つずつ手作業で甘皮を取り除き、薄い果皮だけの状態に仕上げる。

取材の前日にはちょうど「マキノジン」の第2弾となる土佐文旦バージョンを蒸留したばかりで、キーボタニカルである土佐文旦の仕込みに難儀したとか。

「果皮と実の間の白い部分も包丁を使ってきれいに取り除きますが、皮が固く分厚いのでこれがなかなか大変で。

仕込みに際してはプロの料理人を3人雇い、朝から夜まで剥きまくりました(笑)」

蒸留したら仁淀川水系の仕込み水を加えてアルコール度数45度に調整し、タンクで3ヶ月ほど寝かせた後にボトリング。

蒸留したばかりの土佐文旦バージョンは夏頃にリリース予定だ。

創業400年を超える老舗の酒蔵、司牡丹酒造の焼酎庫跡。

新バージョンのキーボタニカルは、”高知のソウルフルーツ”土佐文旦!

蒸留所を案内していただいたのち、試験蒸留したという「マキノジン」土佐文旦バージョンを試飲する。

土佐文旦は“高知のソウルフルーツ”と呼ばれるほど高知の人々の暮らしに根付いている県特産の柑橘で、さっぱりした酸味と甘味、独特のさわやかな香りが特徴的。

難しかったのは、一般的な柑橘香とは異なる文旦特有の香りをジンに移すことだった、と塩田さん。

独特の香りはヌートカトンという成分由来で、これはグレープフルーツや夏みかんなど文旦の交雑種のみに含まれるもの。これをどう引き出すかが、第2弾の開発の肝だったそう。

スロージューサーで絞った土佐文旦ジュースと高知産天日塩が「マキノジン」と絶妙にマッチする「土佐文旦ソルティドッグ」。

おすすめの飲み方は、といえば、
「シンプルにソーダで割って、文旦の果皮を絞っていただく。

あるいは『クラップス』のシグネチャーカクテル、『土佐文旦ソルティドッグ』で。

文旦の苦いがでないよう、スロージューサーで絞った文旦ジュースをジンに合わせ、高知産の完全天日塩、田野屋銀象の『Ginzo – salt』でスノースタイルに。

これはスタンダードな『マキノジン』でもおすすめの飲み方です」


塩田さんが目指したのは、食中酒として飲み疲れないジン。

高知の飲み方は、ビールで始まり、食中は日本酒に移行し、最後は焼酎で締めるという流れが一般的。

「そこで、ビールで乾杯し軽く日本酒を飲んだ後、『マキノジン』のソーダ割りやリッキーを食中に楽しむスタイルを提案したいと思っています。

すでに高知市内の老舗料亭でそのスタイルを取り入れてくれていますが、これを高知の食卓に定着させたいですね」

この土佐文旦、実は「ユズの次に来そうなジャパニーズ柑橘」としてヨーロッパの一流シェフやバイヤーも興味を示しているといい、土佐文旦とともにこれを使ったクラフトジンを海外に紹介していきたいというのが塩田さんの計画だ。

「マキノジン」のベースとなる清酒取り焼酎「大土佐」。香りは日本酒、味わいは焼酎というユニークな米焼酎だ。

土佐文旦の次は新高梨。「マキノジン」の挑戦は続く。

「『マキノジン』の構想段階から、高知らしい農産物である土佐文旦と新高梨(にいたかなし)をフィーチャーしたスピリッツを造りたいと思っていた」というが、レシピ開発から3年、2021年秋の製造から1年半を経て、ようやく当初の目標であった土佐文旦ジンの完成にこぎつけた。

塩田さんの挑戦はまだまだ続く。

「現在もボタニカルについて学んでいますが、第3弾で使う予定の新高梨は香り自体が強いわけではなく、その芳香成分の特徴がどこにあるかわかっていないため、ジンに仕立てることはさらに難しいチャレンジになりそう。

そんなわけで、香りの成分についての知識をさらに深めるために、来夏から大学院に通う予定です。」

オーナーバーテンダー、蒸留家、そして大学院生と3足のわらじを履きながら生産者巡りも続けていくという塩田さん。

ニイタカナシジンの完成の先に見ているのは、もしかしたら四国初となるウイスキー造りなのかも…… ?


なにはともあれ、牧野フィーバーに沸く高知のクラフトの潮流を、ぜひご体感ください!

SHOP INFORMATION

ダンディズム土佐BARクラップス
高知県高知市帯屋町1-2-8
徳屋ビルB1階
TEL:088-824-2771

SPECIAL FEATURE特別取材