Cocktail Stand FUREK:
バーでは減圧蒸留器をどう使ってる?
- 後編 -

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Cocktail Stand FUREK:
バーでは減圧蒸留器をどう使ってる?
- 後編 -

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齋藤隆一/Saito Ryuichi by「Cocktail Stand FUREK」

後編では、バーカウンターでの卓上減圧蒸留器の実際の使い方を検証します。京都・東山五条にオープンする「Cocktail Stand FUREK」ではどう使ってる?

文:Ryoko Kuraishi

11月22日に京都・東山五条にオープンする「Cocktail Stand FUREK(カクテルスタンド フレく)」。

「水」をテーマにしたこちらは、敷地内に掘った井戸から京都の地下水を汲み上げてそれを蒸留し、カクテルやドリンクのアテに仕立てている。

ユニークなコンセプトに基づくメニューに欠かせないのが、蒸留器だ。

通常メニューは常圧蒸留器を使った蒸留水をベースにしているが、2階のスペースを利用できる会員向けには、生産者を訪ねて調達した素材を巴波重工の減圧蒸留器にかけ、特別な蒸留水カクテルに仕立てて提供する。

オーナーバーテンダーの齋藤隆一さんは、昨年5月、前身の「Cocktail Stand FUREK (LABO)」で巴波重工の減圧蒸留器を導入した。

左が「ロータリーフラクションコレクター」。真空状態にした容器内で試験管を回すことで、任意のタイミングでカッティングを行えるもので、12分割のミドルカットを行える。

現在、店で使っている蒸留水はおよそ130種、その半分が減圧蒸留したもの。

素材によって常圧と減圧を使い分けるが、熱に弱い花、たとえばジャスミン、クチナシ、イランイラン、金木犀などを減圧蒸留器にかけると、生花そのもののようなフレッシュな香りを引き出せるとか。

齋藤さんは、減圧蒸留器にかけて芳香成分を取り出した素材をさらに常圧蒸留器にかけ、エッセンシャルオイルを採油。これもドリンクや料理に活用する。

「うちは単一の素材だけを蒸留していますが、他のバーのSNSを見ているといろいろな素材を組み合わせてオリジナリティあふれる芳香水を抽出しています。

みんな、それぞれの蒸留ライフを楽しんでいるんだなあって、拝見しています」

「フレく」で提供する蒸留水カクテルの一部を紹介しよう。

定番の「ジントニック」は、「サントリー ロク ジン」または「ヘンドリックスジン」をベースに、3種類の蒸留芳香水をブレンドした自家製のトニックウォーターで作っている。

巴波重工を率いるエンジニアの安永さん(左)と、「Cocktail Stand FUREK」の齋藤さん(右)。齋藤さんがこの蒸留器を導入したきっかけは、「Bar BenFiddich」の鹿山さんのSNSだったとか。

「香りをまとった水の世界を楽しんでもらいたい」という「フレく」では、複数の素材の蒸留やブレンドは行っていないのだが、唯一、トニックウォーターだけは複雑な香りのレイヤーをもたせるため、蒸留水をブレンドして作っている。

「サクラの花や葉が醸すオリエンタルなフレーバーに柑橘のアロマが特徴の『ロク』。その柑橘の要素を芳香蒸留水でブーストしています。

自家製トニックウォーターは、数種類の柑橘を合わせた蒸留水をベースにユーカリの蒸留水とオールスパイスの蒸留水をブレンド。苦味付けにはセンブリ茶を加えています。

キナを使っていないので狭義ではトニックウォーターではないですが、トニックウォーターのバリエーションとして作ってみました」

もう一つの定番は、ジャスミンの芳香蒸留水を使った「ハイボール」。余韻にふんわりと香るジャスミンがアクセントになっている。

「カジュアルなカクテルスタンドなので、仰々しいテクニックを使ったカクテルよりもボタニカルや素材の香りをシンプルにわかりやすく楽しめるレシピにしています」

柑橘やハーブのフレッシュな香りの立ち上がりがすごい!と話題の、ジントニック。左は自家製トニックウォーター。これだけでモクテルの一杯になる完成度の高さ。

そんな齋藤さんのために安永さんが本日、持参したのは「革命的な機械だと自負している」という、新作の「ロータリーフラクションコレクター」。

「ウイスキー、ジン、ラムといったスピリッツにはカッティングが欠かせません。蒸留液の風味は刻一刻と移り変わるからです。

味見によって風味を確認しながら、それが最高潮に高まった部分をいかにカットするか。蒸留家の腕の見せどころです。

これは芳香蒸留水の蒸留にも全く同じことが言えて、この蒸留中の味見を高度化するために開発したのが、新作の『ロータリーフラクションコレクター』です」(安永さん)

経験のあるディスティラーはどのタイミングで良い風味が立ち上がってきて、どこをカットすればいいか、イメージしながら蒸留をしている。

しかし、未知の素材を蒸留する場合は、風味のピークがいつ現れるかは未知。蒸留におけるカットが一発勝負になってしまう。

これを使えば蒸留水をあらかじめ12の区画(フラクション)に分割できる。あとから順番にテイスティングを行えば、誰でも正確なカッティングが(後出しで)可能になるのだ。

香道のような香り当てゲームが楽しめそう。ふわりとジャスミンが香るハイボール。

「試験管一式をしばらく寝かせ、香りをひらかせてからテイスティングすれば、カットの精度はさらに高まります」(安永さん)

齋藤さんも、「これは欲しい!」と大盛り上がり。

この「ロータリーフラクションコレクター」はプロトタイプにつき、近日発売予定だ。

現在、京都市内だけでも5店舗のバーが卓上減圧蒸留器を導入しており、安永さんのもとには実機を使ったセミナー開催の依頼が続々と舞い込んでいる。

今後は、導入済みバーテンダーたちのアイデアや使い方を共有できるような仕組みやイベントも考えていくとか。

「みんなおもしろい使い方をしているのに、バーテンダーの知見が分散されているのがもったいない。
いずれはオーナーズグループを作って、知識や経験を集約したらいいんじゃないかな」(齋藤)

「そうですね。そうしたデータをオープンソースにしてみんなで使えるようにすれば、レストランやパティスリーなど異分野のアイデアが融合でき、減圧蒸留器を軸にした新しい文化が生まれるかもしれません」(安永)

巴波重工の卓上減圧蒸留器は現在、2024年最後の受注を受付中!
興味のあるかたは大至急、巴波重工もしくは安永さん@shyasunaへお問い合わせを。

Cocktail Stand FUREK
京都市東山区鐘鋳352
URL:https://www.instagram.com/explore/locations/203792309473741/cocktail-stand-furek/